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帰還者たちの午後 3

「俺か?俺は情報だな」


 勿論、京平もクエストクリアによる報酬は得ていたが、当然の如く全てがショウガ関連である。最初っから勝負になるとは思っていない。


「情報?クエスト報酬がか?」


 京平の言葉に聖達は怪訝そうに顔を見合わせている。有益な情報が都合よくクエスト報酬で手に入るとは到底思えない。


「いや、クエストとは別で手に入れた情報なんだけど」

「じゃあ、クエストはクリアしてないって事か?」


 間髪入れずに聖が尋ねる。


「そんな訳あるかっ!一ヶ月もいたんだからクリア位するって」

「じゃあ、まずクリア報酬から聞かせてくれ」

「……何でだよ」


 何故かグイグイ来る聖に困惑する京平。


「何でって……」

「ブラックな労働の対価で勝てるかもって期待してるのよ。それくらい察してあげなって」


 言い淀んだ聖に代わって、穂波が聖の傷口に塩を擦り込みつつ答える。


「……ショウガ、ジンジャーエール、ガリ、それぞれ一年分……」

「うわっ……」


 絶句する穂波の横で、聖は無言でガッツポーズをしている。


「何?ショウガの国にでも行ったの?」


 穂波のもっともな疑問に、京平は力無く頷くしかない。


「まあ、当たらずといえども遠からずだな……」

「へぇ、ロクでもない世界はまだまだあるんだ」


 納得したように頷く穂波。


「それにしても、食料品の単位を一年分にするのは何処の世界でもメジャーなのかな」

「さあな」

「ガリ一年分とか、お寿司屋さん基準で来たら大変だね」


 他人事のように笑う穂波を、京平は憮然と見つめている。


「これは謎のナイトシリーズの方が一発の可能性を秘めてる分、俺の勝ちじゃないか?」

「……ワイヴァーンに追いかけられるような世界だと、ジンジャーエールの安定した味は有難いと思うが」

「まとめて一年分出されても困るけどね。ぬるくなるし、下手したら炭酸も抜けちゃうし」

「穂波、お前はどっちの味方なんだよ……」

「別にどっちの味方でもないわよ。結局のところ、私達が相手してるのは異世界だもん。何が役に立って何が役に立たないかなんて、その時にならないと分からないって」


 京平達を正論で黙らせた穂波は、追い討ちのようにマウントを取る事も忘れない。


「でも、神様が呼べちゃう私の賽銭箱は無条件で凄いけどね!神様だし!」


 そして二人に何か言い返される前に話題を変えてしまう。


「で、京平の情報ってどんなの?随分と自信有りそうだったけど、ようは当たりの世界だったって事でしょ」

「ま、まあな」


 穂波によってナチュラルに上げられたハードルに、京平は少しばかり怯んでしまう。今までに比べれば十二分な成果と言えるだろうが、ゴールが未だに遠い事には変わりがない。


「とあるアーティファクトについてなんだが……」

「アーティファクト!」


 穂波達の目が輝く。エフィにその存在を聞いて以降、具体的な話が出てきたのはこれが初めてだ。


「それは確かに凄いな。謎のナイトじゃ太刀打ちしようもない」


 聖はあっさり白旗を上げ、京平の話の続きを待つ。


「『賢者の石』が存在するらしい」

「メギドの火が封じられてるような?」


 穂波が何を思い浮かべたのか分からなかった京平だったが、すぐにそれが古い漫画の話だと気付く。


「確かに当たらずといえども遠からずだな」

「えっ?そうなの?」


 冗談のつもりだった穂波が驚く。


「あの漫画だと悪魔を滅ぼす為に賢者の石を手にしただろ?だから、その力はメギドの火だった」

「どういうこと?」


 話の見えない穂波は首を傾げている。


「なんでも『賢者の石』は、それを手にした者によってその性質を変えるらしい」

「そうなの?」

「まあ、あくまで俺が行った世界で誰かが調べていた話、だけどな」


 疑いの目を向けて来る穂波に、京平が断りを入れる。


「そいつによれば、世界を滅ぼした『賢者の石』や、流行り病に襲われた民衆を救った『賢者の石』が存在した世界があるそうなんだ」

「錬金に成功した世界は無いんだ」

「ん?ああ、錬金術か。確かにそんな話は無かったな」

「金を産み出すだけに使うには惜しい性能だもんね。そう考えると、この世界では勿体ない使い方されるところだったんだ」

「当時の錬金術師にしてみれば、錬金以上に価値がある物は無かったんだろうさ」

「確かにそうかもね」


 納得した様子を見せる穂波。


「だからまあ、俺達が手に入れた場合、高坂を救えるような癒しの力を持ってくれるんじゃないかと思うわけよ」

「だったらいいんだけどさ。その話は信用出来るのか?」


 聖のもっともな質問に、京平は苦虫を噛み潰したような表情になる。


「こればっかりは分からん。もしかしたら狂人が妄想を書き連ねただけなのかもしれないしな」

「単なる中二病かもしれないしね」


 穂波のちゃちゃに、京平は軽く肩を竦める。


「とは言え、そもそも今の俺達の状況が妄想の極致みたいなもんだろ。『聖騎士王』になる、とかさ」

「『聖騎士王(パラディンおう)』に、俺はなる」


 京平の振りにいつものように張り切って宣言した聖だったが、二人は華麗にスルーして話を続けた。


「転生の神にしろ賢者の石にしろ、基本私達には信じるしか選択肢が無いのよね」

「信じる者は救われるって言うしな」

「……あんなんでも神だって言い張ってる訳だしね……」


 何処か不満気な穂波の表情に、京平は思わず笑ってしまう。


「何よ」

「あれを信じるのがよっぽど嫌なんだなって」

「……しょうがないじゃん。こちとら神社の娘として、それなりに信心深く生きてきた訳よ。なのに、あんなふざけた感じの奴に神ですって言われてもねぇ」

「でも、アーティファクトの話をしてくれたのはエフィさんだろ。そう考えたらどうだ?」

「……エフィさんは信じられる。今一瞬、そのエフィさんを紹介したのはあいつ、とか頭をよぎったけど、気にしない事にする」

「それがいい。信じられるものを信じて救われようぜ」


 完全に納得した訳では無い穂波だったが、京平の言葉には分かったと言うように頷く。


「『賢者の石』って具体的なワードが手に入っただけでも一歩前進だよね。もしかしたらこれをきっかけに別の何かに繋がるかもしれないし」


 穂波のその言葉を聞いた京平は、ある事を思い出しあっと声を上げた。


「そうそう。ワードと言えばもう一つ、あるにはある」

「何よ?」


 京平の歯切れの悪さに引っかかるものを感じた穂波が、怪訝そうに尋ねる。


「『聖女』が関わってるらしいんだが……」

「また中二病が悪化したような感じの話が出てきたわね」


 京平は穂波の呆れたようなツッコミを無視して話を続ける。


「ただ、こっちに関しては世界によって色々違うらしくてな。呼び名にしても『導きの聖女』だの『囚われの聖女』だの『全知の聖女』だの、色々ある」

「で、その聖女様は賢者の石とどう関わってくるのよ」

「……それも、石の元へ導いてくれるだの、石を護っているだの、色々ある」

「『導きの聖女』って呼ばれてて導いてくれなかったら何なんだって話だもんね……つまり石のある世界によって聖女様の役割も違うって事か」

「多分な」


 京平の話を聞いた穂波は、暫く腕組みをして何やら考え込んでいたが、やがて大きく頷いた。


「おけおけ。ようは、私達が調べるべきは『賢者の石』と『聖女』って事ね。それが分かっただけでも十分」

「だな」


 納得し合う京平達を尻目に、決めポーズのまま固まっていた聖がおもむろに口を開く。


「師匠は聖女じゃないのかな?」

「師匠?レリーさんか?」

「そうそう。あの人達、龍の巫女とか呼ばれたろ?師匠は師匠で慈愛の聖騎士って名乗ってたし」


 その言葉に暫く何か考え込んでいた京平だったが、やがていやいやと頭を振った。


「聖騎士と巫女だろ。クサいところをついている気はするけど、別物っちゃあ別物だろ」

「そうなんだけどさ。もしかしたら、世界によっては聖女を巫女と呼んだりするかもしれないだろ?」

「確かに無いとは言えないだろうが……仮にそうだとしたら、俺達の話を聞いた時に『賢者の石』の話をしてくれてもよくないか?」

「それもそうか……いや、でも、師匠の事だからこれも試練なのかも……」


 二人してうんうんと悩み始めた男達を、穂波は呆れたように見つめていた。


「じゃあ、今度その世界に行った時に聞けばいいじゃない。それくらい出来る関係性は築いてるんでしょ?それで解決じゃん」

「……そうだな」

「確かに」


 穂波の言葉に京平達も納得する。本人達に聞いてしまえば早いに違いない。


「これってさ、また同じ世界を引いたとしてもやることが出来たって事だよね。今までの事を考えたら、大分前進したんじゃないかな」


 少し嬉しそうな表情を浮かべる穂波。


「私もヴィル姉さんに会えたら聞いてみようっと」


 そして大きく伸びをする。


「ねぇ、話も一段落したし、鰻屋行かない?久しぶりに濃い味のご飯が食べたい」


 ヒメとの古の和食生活も悪くはなかったが、一ヶ月も続くと現代の味が懐かしくなろうと言うものだ。


「いいね」

「よし、早速行くか」


 聖達もすぐに賛成する。基本ショウガベースの食生活だった京平に、何だかよく分からない近未来的な食生活だった聖。現代の味を求めているという意味では、穂波以上と言ってもいい。


「じゃあ、明日からの『おねリン』の活力の為に、いっちょ行くとしますか」


 ウキウキの穂波を先頭に三人は部屋を出て行く。

 こうして三人の長い『おねリン』の十日目が終わったのだった。

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