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帰還者たちの午後 1

 それぞれの世界で三十日間きっちり過ごした三人は、元の世界での三十時間後、つまり出発した日の翌日の午後に揃って戻って来た。


「マジでマックス延長してたんだな、お疲れ」


 最初に口を開いたのは、二人の延長を聞かされていた聖だ。神の言葉を疑っていた訳では無いが、自分の引きが悪かったが為に、心のどこかにあった間違いであってほしいという気持ちが漏れ出てしまう。勿論、誰かが当たりを引けていたのならば、それはそれで目的に近付いているのだから喜ばしい事である。それを素直に受け止められないのは、三十日に及ぶ重労働で心が荒んでしまっているのだろう。


「えっ?二人もそうなの?それはお疲れだねー」

「じゃあ、なかなかの当たり回だったって事か」


 対してそれなりに充実した日々を過ごした二人は、あっさりと状況を受け入れた。他の二人がどんな成果を上げたかは分からないが、自分の成果もそんなには悪くはないとの自信が見てとれる。


「……さぞかし、モフモフしたんだろうな」


 そんな京平達に聖が恨みがましく言うが、二人は揃って否定した。


「いや、モフモフはしてないし」


 そして顔を見合わせる。


「してないの?」


 穂波の問いに、京平は軽く肩を竦めた。


「蟹だったしな。モフモフのモの字もありゃしねぇ。仮にあったとしても人の使い魔だぜ。モフモフなんてしようがねぇよ」

「蟹……使い魔……」


 予想外の言葉に、穂波は唖然とした表情で鸚鵡返しに呟く。


「そういう穂波は何だったんだよ」

「私?私は八岐大蛇」

「やまたの……おろち……」


 自分とは別の方向で予想外な答えに、京平も唖然とした表情を浮かべ鸚鵡返しに呟いた。


「見るからに触ったらヤバそうな感じだったからね。モフモフからは最も遠い質感だったもん」

「八岐大蛇だもんな……という事は、また日本風の世界だったんだな」


 京平の言葉に、今度は穂波が肩を竦めた。


「まあね。とは言え、神代だから異世界感はそれなりにあったけど」


 ヒメに神感は無かったけど、と穂波は心の中で付け加えて小さく笑う。


「じゃあ、もしかして素戔嗚尊とか櫛名田比売にも会えたのか?」

「うん、ヒメには会ったよ」

「ヒメ?櫛名田比売の事?」

「うん」

「えっ、神様をヒメって呼ぶの?凄いじゃん」

「えへへ、でしょ?なんてったって飲み友だしね」

「神様と?」

「うん。大蛇ともね。二人してヒメに潰されたもんよ」

「マジで?」

「大蛇には勝てそうなところまでいったんだけどさ」


 楽しそうに話す二人に対し、聖の恨み言が飛ぶ。


「……なんだか楽しそうで羨ましいよ……」

「でも、お前だって延長したんだろ?何かいたんじゃないのか?」


 不思議そうな二対の視線に見つめられた聖は、弱々しく首を振り大きなため息と共に答えた。


「ミニワだよ」

「……ああ……」


 前回の話を聞いている京平は、全てを察し憐みの表情で頷く。


「何?何々?ミニワって何よ。クプヌヌと言い、ミニワと言い、皆さんご存じの体で話すのやめてって言ってるじゃん」


 一方ミニワを知らない穂波は抗議の声を上げるが、京平は構わず話を続ける。


「なんであの世界で延長なんかしてるんだよ……」

「だって二人共マックス延長するって神様が言うしさぁ。じゃあ、一人還っても暇だろ」


 三人は、だらけた体勢のまま参加者の帰還に目もくれずテレビを見ている神へと目を向けた。その突き刺さるような視線を感じたのか、神はのそっと三人へと向き直った。


「どうかしましたか?」

「別に。ただ、わざわざ他人が延長したことを教えてくれるなんて優しいな、と思ってな」


 京平の皮肉も神には全く通じない。


「そうでしょう、そうでしょう。何せ私、おはようからお休みまで皆様に寄り添う転生の神、でございますからして」

「今さっき私達が還ってきた時、ガン無視だったじゃない」


 呆れた穂波の声も神はガン無視だ。


「ボーナスステージが始まるとの連絡も受けていましたからね。還られてしまっては勿体ない、と僭越ながら声をかけさせていただいた訳で」

「ボーナスステージねぇ。どうせロクでもない事やらされたんだろ?」

「正解!」


 京平の問いに思い出したくもないとでも言うかのような表情を見せる聖。


「マジで、もう、二度と、行きたくねぇ」

「そうは仰る割には、がっつりレベルを上げているじゃありませんか。おかげで私の鼻も高くなろうというものです」

「何であんたの鼻が高くなるんだよ」


 京平がツッコむが、神は全く取り合わない。


「今回の仕事ぶりも非常に評価されているようで、次回も特進スタートだそうですよ。いよっ、この働き者!」


 どんどん上がっていく神のテンションに対し、聖のテンションは反比例の如く下がっていく。


「特進て何なの?」


 聖の行った世界を全く知らない穂波は、目の前の光景に眉を顰めつつ尋ねる。


「……工場のライン管理の難易度が上がるんだよ。今回はレベル二からスタートだったはずが三階級特進してレベル五からスタート」

「……バイト?」


 前回の京平と同じ反応に、聖は弱々しく頷く。


「口車に乗って延長したんだ……」

「でも、特進した分の業務目標達成ボーナスは貰えてるから。多分、手に入れたアイテムの量は俺が一番多い……と思う」


 呆れたのか憐れんだのか、やれやれと言った感じで呟いた穂波に、聖は少しむきになって言い返すが自信の無さが語尾に現れている。


「量か。確かにこの先何が必要になるか分からないから、手札は多いに越したことはないな」

「だろ?」


 京平の言葉に聖が勢い込んで頷く。そんな聖に、京平はニヤリと不敵な笑みで応じた。


「ただ、やっぱり質も重要だと思うんだよ」

「やけに自信がありそうじゃない」


 穂波が入れてきたちゃちゃにも京平は動じない。


「まあな。今までの事を考えたら、なかなかの当たりと言ってもいい気がする」

「そんなに?」


 割と自信がありそうな京平の姿に、穂波は驚きを隠せない。


「穂波だって延長したって事は、何かあったんだよな?」

「うん、まあ、ちょーっと判断に迷うところだけど、あったって言っていいかな……」


 京平に比べると自信無さげな穂波だったが、京平は構わずに話を進める。


「じゃあ、とりあえず情報をすり合わせるとするか」


 それには二人も異論はない。


「だな」

「だね」


 それぞれ思うところがありつつも、揃って頷く。

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