荒野の妖精 21
新たに姿を現した白い廊下を、京平達はまだ何か隠されていないかと注意深く進んでいく。やがて廊下は緩やかな下り坂となり、そして遂にゴールと思しき扉が見えてきた。
「あれか?」
叡智の墓場の入口と言うには余りにも簡素な扉に、バルドファルグリムが訝しむ。
「だといいんですけど……」
それに応えた京平も自信は無さげだった。辺りを見渡しても、目に入るのは壁に取り付けられた火花を散らす箱が一つだけ。目的地と言うにはあまりに寂しい光景だ。
「……そうだな」
訝しげな表情のまま頷いたバルドファルグリムは、壁の箱へと近付くと無雑作にその蓋を引っぺがす。出てきたのは機械の残骸だ。剥き出しになった基板は焼け焦げ、焼き切れたコードは火花を散らしている。
それを見たバルドファルグリムは、僅かに顔を歪めた。その表情に目の前の光景への嫌悪を感じた京平だったが、その事を問うのは憚られた。さりげなくバルドファルグリムから目を逸らし、扉へと近づく。自動ドアで勝手に開くかと期待したのだが、どれだけ近付いても反応する様子はない。扉にそっと手を触れてみると、冷たい感触が返ってくる。どうやら鉄扉らしい。拳で軽く叩いてみると、澄んだ音が小さく響いた。
「開きませんね」
おそらく箱の中身が廊下の偽装だけでなく、扉の開閉もコントロールしていたのだろう。これだけ完膚なきまでに破壊されていては、どうしようもない。
「……そうか」
面白くなさそうに答えたバルドファルグリムは京平の横に立ち、同じように扉を叩いてみる。そしてコンコン、コンコンと何度かリズミカルな音を立てると、意を決したように頷いた。
「よし、やるか」
そう言うと扉から距離を取るよう京平を促し、自分も離れる。
「よし、行くぜ!」
十分離れた所でそう言ったバルドファルグリムは、京平の答えも聞かずにベースをかき鳴らし始める。こうなると否が応もない。京平は後に続くように頭を振る。
存分に盛り上がったところで生み出されたのは、激しい炎の渦だ。その勢いは圧倒的で、あっという間に鉄扉を溶かしてしまう。
「いいね、オマエ最高だよ」
満足げなバルドファルグリムに、京平は曖昧な笑顔で応えた。褒められるのは悪い気はしないが、何を褒められているのかはよく分からない。
「さて、何が出てくるかな」
炎が消えるや否や、バルドファルグリムはさっさと扉へと足を進めた。溶け残った鉄が発する高熱などお構いなしだ。
「ちょ、ちょっと!」
置いて行かれる形になった京平が非難の声を上げるが、そんな事で止まるバルドファルグリムではない。すぐに扉の向こうへと姿を消してしまった。
「ああ、もう!」
慌てて後を追い、熱い扉を走り抜ける。だが、バルドファルグリムはすぐそこに立ち尽くしており、勢い余った京平はその背に顔からぶつかってしまう。
「っ、すいません」
慌てて謝るも反応は無い。痛む鼻を押さえながら、バルドファルグリムの視線の先へと目を向ける。そして彼女と同じように絶句してしまった。




