神が来りてホラを吹く 3
「お前、割と乗り気だろ?」
京平の問いに聖は親指を立てて答える。
「お、やっぱり分かっちゃう?」
既にやる気になっているのか、聖の言葉の端々に興奮が感じられる。
「さっきのどうする?が、俺はやるけどお前はどうする?にしか聞こえなかったからな」
京平は呆れたようにため息を吐いた。
聖はいつもそうだ。自分は前へ前へと進もうとしてから、自分に手を差し出してくる。断られることなど考えていない。一緒に行動する事がさも当然だというように。
「細かい事はよく分からなかったけど、異世界へ行けるんだろ?こんなチャンスなかなかないぜ」
「細かい事が分からないのに、よくもまあ、そんなに前向きにとらえられるな」
「だって、あいつ言ってたじゃん。『聖騎士王』になれる世界を見つけられるかもって」
お互い呼び名を譲る気はないんだな、と思わずにいられない京平。
「そう、確かに言ったんだよ。見つけられるじゃなく、見つけられるかもって。かもって事は出来ない可能性もあるって事だぞ」
「そうだな。でも、出来ない可能性を気にしてたら、結局何も出来ないだろ」
今までと打って変わって真剣な表情を見せる聖。
「この先、俺達に高坂を救える可能性があるか?無い。この先、医学が高坂を救ってくれる可能性があるか?いつか、なら可能性はあるだろう。だけど、高坂にはそれを待つ時間がおそらく無い。この先、俺が『聖騎士王』になれる可能性があるか?そんなもの、普通に考えてある訳がない」
「……そんなものになるって言ってたのはお前なんだが……」
「言霊だよ、言霊。思いは口に出さないと伝わらない。なりたいという俺の思いが伝わったからこそ、こうしてチャンスがやって来たんだ」
あの転生の神が言霊の力でやって来たのだとすると、言霊と言うのは途轍もなく意地の悪い奴ではないだろうかと、京平は思う。どうせチャンスをくれるなら、もう少し理性的な展開でもよかっただろうに……
いや、そもそも今の聖の言葉をそのまま受け取るなら、本当に『ぱらでぃんおう』になりたいと考えていたんじゃないか……
「これ見てみろよ」
聖はそう言ってお互いが手にしている企画書の表紙を指し示す。
「希望の世界を探してみませんか、だぜ。俺達の希望、高坂の希望、そんな世界がきっとあるんだって」
流石に、『おねがいリンカーネーション』では押してこない。
「やろうぜ、京平。あの時みたいに。あの時だって何とかなったんだ。今回だってきっと何とかなる」
軽く言ってくれる。何とかする為にどれだけ苦労をしたことか。
「結局、少し届かなかったけどな」
「そうか?あの時、俺達はベストを尽くした。その結果なんだから恥じる事はないと思うぞ」
聖はどこまで行っても前向きだ。
「OK。分かった。とりあえず、やってみよう」
「そう来なくっちゃ」
軽く拳を合わす。
「まずは状況を整理しておこう。目的は高坂の治療、これでいいな」
二人の作戦会議が台所の隅で始まる。
「ああ」
「その方法の一つとして、お前は『ぱらでぃんおう』を目指す、と言うことだな」
「おう。『聖騎士王』に、俺はなる!」
本日何度目かの宣言だが、相変わらず威勢がいい。
「一回十日を三回、それに延長チケットとやらを使うとしても一ヶ月とプラスα……あって二ヶ月くらいか。なれるか?」
「なれるかどうかじゃない。なるんだ」
前向きな姿勢もここまでいくと考え物であるが、京平は気にしない事に決めた。昔から変わらないし、これからもきっと変わらないだろう。
「OK。それでいい。お前は『ぱらでぃんおう』になる。それを目指せ」
「任せろ」
ググッと天に拳を突き上げて見せる聖。
「後、念のための確認だが、本転生する気は、ないよな?」
「当たり前だろ。本転生なんかしてしまったら高坂を救えなくなるじゃないか」
「……OK」
色々言いたいことが思いついたが、結局口にするのはやめた。良くも悪くも単純なのが直江聖と言う男だ。
「その辺、あの神には気付かれないようにしないと」
「ん?」
「あいつの話では、仮転生ってのは本転生の為のお試しって事だろ?だが、俺達に本転生する気はない。仮転生だけで高坂を救う」
「そうだな」
「と言う事は、だ。俺達に本転生する気が無いとあいつに知られたら、そこでお試しが終わってしまう可能性がある。と言うか、普通に考えたら終わる」
いかに神と言えども、契約する気がない人間を相手にしてくれるとは思えない。
「だから、あくまでも本契約に向けてお試しの仮転生を繰り返す、というスタンスを見せていく必要がある」
「何か騙すようで気が引けるな」
「騙すんじゃない。あくまで仮転生を試した結果、本転生しないだけだ。お前だって体験版だけやって、実際には買わなかったゲーム山ほどあるだろ」
「ああ、確かに」
聖も納得の表情を見せる。
「で、京平はどうするんだ?」
「俺か?俺はとりあえず転生してみて考えるよ」