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荒野の妖精 20

 光の障壁に護られた京平達は、廃坑の奥へと歩き続けた。京平はバルドファルグリムの詠唱に合わせ、時にはタオルを回し、時には飛び跳ね、時には頭を振る。それっぽく曲調に合わせてみているだけなのだが、バルドファルグリムはそんな京平の姿にご満悦らしく、なお一層詠唱にも演奏にも熱が入る。断続的に墓守であろう男達が襲ってきているが、壁はものともしない。ノリに合わせて光が揺らぐこともあるが、防御力にはいささかの影響もなさそうだ。

 それもこれもライブの経験の賜物かと、密かに琵琶湖の神の使徒に感謝の祈りを捧げる京平。今日が初ライブだとしたら、上手く旋律に乗る事すら出来なかっただろう

 どれくらい奥へと進んだのだろうか。いつしか襲ってくる男達の姿もなくなっていた。京平達はそれでもひたすらに詠い踊り、先へと進む。


 最初に違和感を覚えたのは京平だった。少々疲れてきたこともあり、襲撃が無くなったのを幸いと動きを小さくする。そこでようやく辺りの様子に気を配る余裕が出てきたのだが、すぐにある疑問が浮かんできていた。


「ん?どうかしたか?」


 キョロキョロと落ち着きを失った京平にエスが声をかける。


「別に大したことじゃないんですが……随分と直線的だなって」


 京平の言葉通り、今進んでいる道は前も後ろもまっすぐな一本道だ。たまにあった曲がり角も、直角だったように思う。京平唯一の廃坑体験である佐渡の金山を歩いた時の記憶と比べても、違和感がある程に全てが直線的に感じられた。


「そう言われてみりゃ、そんな気もするな」


 これ以上の襲撃は無いとみて詠唱を止めたバルドファルグリムも、周囲を見渡しては首を傾げている。


「こんな事あったか?」


 バルドファルグリムの訝し気な問いに、エスは鋏を振って答えた。


「オレ様の知る限りでは無いね」


 その言葉にバルドファルグリムは岩壁へと手を伸ばす。返ってきたのは見た目通りの岩の感触だ。


「オマエはどうだ?」


 促された京平も触れてみるが、やはり岩肌しか感じられない。


「……そうか……」


 首を横に振った京平を見たバルドファルグリムは、厳しい表情で何事か考え込む。やがて意を決したのか一つ頷くと、一際大きくベースをかき鳴らした。


「よし、デカいの行くぜ!死ぬ気で付いてきな!」


 そう言うや否や、すぐに詠唱に入る。今までになく激しい曲調の詠唱だ。


「えっ?何が?」


 訳が分からない京平だったが、詠唱は始まってしまっている。こうなると、とにかくタオルを回し、飛び、頭を振るしかない。

 エスはこれを《同調(シンクロ)》だと言った。今になってその意味がようやく分かって来た。

 バルドファルグリムが産み出そうとしている大きな力。その力が自分の動きに合わせてうねっているのが感じられる。そのうねりは詠唱が進むに従い大きくなっていき、やがて爆発的とも言える力へと変化していった。


「い、く、ぜー!」


 詠唱のクライマックスで響き渡るバルドファルグリムの絶叫。溜まりに溜まった力が一気に解放され、凄まじい衝撃波となり通路を進む。

 歌声が止み、辺りが静まり返る。力を振り絞ったのか、バルドファルグリムはその場にへたり込んだ。そして京平も続く。


「おっ、《同調(シンクロ)》したねぇ」


 エスが軽口を叩くだが、二人に反応する余裕はない。荒い息遣いで結果を待つが、坑道に変化は見られない。


「……ちっ」


 舌打ちと共にバルドファルグリムが立ち上がろうとした瞬間、遠くで微かに何かが爆ぜる音がした。何事かと思う間もなく、辺りの様子が一変していく。


「これは……」


 壁の表面をパチパチと火花が走ったかと思うと、潮が引くように岩壁が消えていき、代わりに姿を現したのはくすんだ白い壁だ。


「……コンクリート?」


 京平が壁に這い寄ろうと床に手をつくと、馴染みのある手触りが返ってきた。


「……トンネル?いや、廊下か……」


 目を細めて遠くを見遣ったバルドファルグリムが呟く。どうやらここは人工的に作られた通路らしい。


「ですかね……」


 京平も同意の呟きを漏らすが、まるで変わってしまった風景に次のアクションが起こせない。二人して先の見通せない廊下の奥を呆然と眺めている。


「まあでも、これは当たりだろ?なら、良かったんじゃね?」


 そんな二人の様子を知ってか知らずか、エスが暢気な声で呟く。その言葉に二人はハッとして顔を見合わせた。


「そうかっ!そうだよなっ!」

「わざわざ偽装していたという事は!」


 再び廊下の奥へと目を向けた二人だが、先程までとは違いその瞳には期待の光が宿っていた。


「よし、行くか」


 バルドファルグリムが差し出した手を、京平がしっかりと掴む。


「行きましょう」


 その言葉に笑顔で頷いたバルドファルグリムは、その手を力強く引っ張り上げた。

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