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荒野の妖精 16

「もしかしてあの話か?だとしたら、この前も空振りだったじゃねぇか。いいのかい?そんな期待を持たせるようなことを言っちまってよ」


 思い当たる節があるエスが窘めるが、バルドファルグリムは全く意に介さない。


「いいじゃねぇか。どのみちこの世界にゃ、ショウガかこの話かくらいしかないんだからよ。また、空振ったらその時はその時さ。残念でした、とジンジャーエールで乾杯でもしようや」

「……ジンジャーエールは勘弁願いたいですけどね……」


 京平の脳裏に浮かぶのは、さっき見たむさ苦しい男の手絞りジンジャーエールだ。あれを見てしまった以上、暫くは現世でもジンジャーエールを飲むのは憚られる気がしてならない。この世界のなら、なおの事だ。


「そうかい?じゃあ、別にバーボンでもミルクでも、オマエの好きにすればいいさ。今大事なのは、三人で行けば喜びは三倍に、哀しさは三分の一になるって事さ」

「で、その話の信憑性はどの程度ですか?」


 京平の質問に、バルドファルグリムは飄々と答える。


「信憑性?そんなもの、百パーセントに決まってるだろうが」

「じゃあ、何が問題なんです?」


 そこまで信憑性がある話だとしたら、何に空振れるのかさっぱり分からない。


「そいつが存在しているのは間違いねぇ。これは確実な話さ」

「じゃあ、何が確実じゃないんです?」


 淡々とした京平の追求に、バルドファルグリムの目が泳いだ。京平はそんな彼女を、ただじっと見つめ続ける。その終わりの見えない無言の追求に、バルドファルグリムはたまらずエスに助けを求めた。


「……場所だよ、場所」


 甲殻類がこんなにも感情を表せる事が出来るのかと京平が思う程、全身で呆れた感を出しつつもエスが助け舟を出した。


「さっき、こいつがショウガかこの話しかねぇって言ったが、そうじゃねぇ。この話か、ショウガか、廃坑しかねぇ、が正しい」

「はいこう?」

「ああ、廃坑さ。いったい何を掘ってやがったのか知らねぇが、ここには腐る程廃坑があるんだよ」

「その廃坑のどれか、が当たりだって話なんだけどな」


 バルドファルグリムがため息をつく。


「今のところ、その当たりは引けちゃいねぇって話さ」


 エスはエスで、力無く鋏を下げた。まるで肩を落としたかのようなその姿に、京平はただただ驚くばかりだ。流石は使い魔という事だろう。単なる甲殻類には無理な感情表現である。


「ま、ここまで随分と外したんだ。そろそろ当たるだろ」


 バルドファルグリムがあっけらかんと言うが、エスの意見は懐疑的だ。


「そうか?もう、完全に沼っちまってるようにしか思えないぜ。そもそもあんた、あんまり運のいい方じゃねえだろ?」

「それを言われるとな……」


 痛い所を突かれたのか、バルドファルグリムが顔を顰める。その右手は何かを探すかのように左手の指を撫でさすっているが、そこには何もない。


「その、当たる当たらないはともかくとして。当たりだったら何があるんですか?」


 二人がこれ程言うのだからよっぽどなのかもしれない、と京平は僅かな希望を胸に抱く。


「何って……エイチノハカバだよ、墓場」


 どうだとばかりにもったいぶったバルドファルグリムだったが、京平には上手く伝わらず首を傾げられてしまう。


「エイチ?」

「そう、エイチだよ、エイチ」


 言い募るバルドファルグリムだったが、京平はなおも首を傾げている。


「わっかんねぇかなぁ。エイチだよ、え、い、ち。あー、何て言ったら分かるんだよ」


 上手く伝えられずに困り果てたバルドファルグリムに、エスが助け舟を出した。


「知恵、じゃね?」

「ちえ?……知恵?あー、叡智!」


 その言葉でようやくピンときた京平が手を打つ。


「やっと、分かったか。そう、その叡智の墓場、さ」


 えいちが叡智である事は理解した京平だったが、その墓場が何かまではイメージが湧かない。


「で、その叡智の墓場には何があるんです?」

「何って、そりゃオマエ……」


 そこで一瞬バルドファルグリムの目が泳ぐ。


「かつて世界を震撼させた叡智が眠ってたりするんだよ」

「何ですか、その世界を震撼させた叡智って」


 呆れた京平が思わずツッコんだ。どうやらバルドファルグリムもこれといった情報は持ってないらしい。


「全ての病を治したり、神を殺したり、とか」

「それ、単純に俺達の願いなだけですよね」

「だったらいいなって話だよ」


 逆切れ気味のバルドファルグリムの姿に、今度は京平が呆れたようにため息をつく番だった。


「墓場なんですよね?そんな凄い叡智があるとは思えないんですけど」


 京平の言葉に、今度は思慮が足りないなとばかりにバルドファルグリムが呆れたように首を振った。


「凄いからこそ、墓場に封じられてるんじゃねぇか。そうじゃなきゃ、ただただ忘れ去られるだけだろ?」

「……確かに」


 どこか信じたい気持ちもある京平は、バルドファルグリムの雑な理論にあっさりと納得してしまう。


「だろ?とにかくよ、ワタシやオマエが探している答えが、そこにあってもおかしくはねぇって思うのよ。じゃあ、行くしかないよな」


 バルドファルグリムはそう言ってニヤリと笑って見せた。

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