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荒野の妖精 14

 いきなり核心を突かれ動揺する京平だったが、辛うじて平静を保って見せる。


「ハハ、ちょっと質問の意味が分からないんですけど」


 さらに笑って誤魔化そうとしたのだが、やはり動揺は隠しきれず、その声は微かに上ずっていた。


「そんなに警戒すんなって。何も取って食おうって訳じゃないしよ」


 バルドファルグリムはそう言って笑うが、動揺を見透かされた京平は少しばかり憮然とした表情を見せる。


「それ、取って食う側の人の常套句じゃないですか」

「確かに、違いねぇ」


 エスが茶化すように合の手を入れるが、バルドファルグリムは肩を竦めて受け流した。


「そうは言うけどよ。そんな格好して、ショウガに対して頓痴気な反応してるんだ。この世界の住人じゃないってもろバレだろうが」

「それはまあ、そうかもしれませんけど……」


 バルドファルグリムの言葉に渋々頷いた京平は、ふとある事に気付いた。彼女の言う通り、自分はこの世界において異質な存在である。だが、彼女はその事に気付いているにも関わらず、自分を違和感なく受け入れているようにしか見えない。少し考え込んだ京平は、すぐにあっと声を上げた。


「そうさ、そういうことさ」


 驚いた京平の姿を見て愉快そうに笑うバルドファルグリムの姿もまた、この世界において異質に違いない。服装こそこの世界の住人のようだが、エルフがウロウロしているような世界には思えない。


「オマエがどうやってここへ来たかは知らないが、この世界の住人でない事くらいはすぐに察しが付くさ。何せワタシは、『境界を(フロンティア・)歩く者(ウォーカー)』、だからな」

「『境界を(フロンティア・)歩く者(ウォーカー)』?」


 初めて聞く言葉に京平が首を傾げると、それを見たエスが自慢気に鋏を振り回しながら説明を始める。


「そう、『境界を(フロンティア・)歩く者(ウォーカー)』。『この世』から『あの世』へ、世界と世界が重なり合い曖昧になった境を越えて彼岸へと歩いて行けるのさ」

「……はぁ……」


 その分かるような分からないような説明に、京平は曖昧に頷く。


「ついでに言うと、境界の揺らぎを感じる事も出来るんだぜ。当然、お前がここへ来たであろう揺らぎにも気付いていたさ、なあ?」


 エスに話を振られたバルドファルグリムは、当然とでも言うように肩を竦めて見せた。


「まあな。もっとも、どうやってここへやって来たかまでは分かりはしないけどな」

「異界の『境界を(フロンティア・)歩く者(ウォーカー)』って感じでもないしな」


 二対の興味深げな視線が京平に突き刺さる。エルフはともかく、蟹にまじまじと見つめられるのはどうにも居心地が悪い。思わず身を捩って視線から逃れようとする。


「だから、別に取って食いはしねぇって」


 そう言って笑顔を見せるバルドファルグリムだったが、もうその目は笑っていない。なおも値踏みするよう、油断なく京平の様子を窺っている。


「が、事と次第によっちゃ話は変わってくるかも知れないけどな」


 バルドファルグリムの言葉に合わせ、エスがまるで首を掻き切るポーズをとるかのように鋏を横に振るう。


「何も難しい事じゃねぇ。オマエが何処の誰で、どんな世界からどうやって来たのか、それを教えてくれって話さ」


 それが難しいんだと、心の中で頭を抱える京平。いきなり『おねリン』の話をして信じてもらえる自信はない。


「それとも何か?こんな胡散臭い女に話す事はねぇってか?」


 相変わらずの笑顔だが、声音に剣呑な響きが加わった。危険な香りを感じた京平は、慌てて首を振った。


「いえ、そうは言わないですけどっ!……ただ、こんな話信じてもらえるかどうか……」


 京平が不安気に告げると、バルドファルグリムはそんな心配を吹き飛ばすかのように笑った。


「何を迷っているかと思えば。こちとら歴戦の『境界を(フロンティア・)歩く者(ウォーカー)』様だぜ。これまでどれだけの世界を見てきたと思ってる?そのオレが信じられないような話ってんなら、それはそれで是非聞かせてもらいたいね、なあ」


 同意を求められたエスも、頷く代わりに鋏をブンブン振りまわしている。


「いいからさっさと話せって。取って食われたくはないんだろう?」


 バルドファルグリムにそう促された京平は、少し迷いつつも話し始めた。

 不治の病に侵されている幼馴染と突然現れた転生の神の存在。そして彼女を助けるために、神に勧めるがまま『おねリン』に乗り、異世界へと転生している事。

 改めて人に説明してみると、本当に馬鹿げた話だと思う。それでも真剣なのだという事を、神妙な面持ちで話した。

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