表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
291/328

荒野の妖精 12

 外はすっかり夜になっていた。辺りを包むひんやりとした空気に、京平は思わず身を竦ませる。


「さて、と。あいつら追ってくるかねぇ」


 そんな京平の様子を知ってか知らずか、女性は歩き出しながら暢気な口調で問いかけてきた。とりあえずその背を追う京平の手の中で、エスが呆れたように答える。


「そんなの追ってくるに決まってるじゃねぇか。逆の立場で考えてみろよ。あんただったら、このままオレ様達を大人しく逃がすのかい」


 そして蟹の体とは思えぬ器用さで、女性の肩へと飛び移った。


「さあな。ワタシなら、そもそも逃がすようなヘマはしないさ」

「あーあー、そうでしょうともよ。聞いたオレ様が悪かった」


 エスが腹立たし気に鋏をブンブン振り回す。


「まあ、別にワタシだけだったら追われても構わないんだが……今回は、この兄ちゃんが居るしな」


 誰のせいで追われる羽目になったのか、との文句が喉まで上がってきた京平だったが、何とか飲み込んだ。今のところ、この世界で頼れそうな相手は目の前の女性しかいないのだ。わざわざ面倒を引き起こしそうな行動を取る事もない。角が立たない答えでも返してやり過ごそうと考えた京平だったが、なかなかいい言葉が出てこない。そうこうしていると返事が無い事に焦れた女性が振り返り、小さく身を震わせている京平の姿を目にする。


「ん?何だオマエ、震えてるじゃねぇか。もしかして、ビビってんのか?」


 そう揶揄われては、京平も黙ってはいられない。


「寒いんですよ」


 ムッとした口調で言い返す。


「そりゃまあ、そんな恰好なら寒いだろうさ」


 真夏の現世からやってきた京平の半袖シャツ姿に、女性は益々呆れた口調になる。


「……悪かったですね」


 次からはもう少し厚着で転生に臨むべきかと頭を悩ませる京平。今回はまだ震えるだけで済んでいるが、真冬の雪山にでも放り出されたら命に係わるだろう。とは言え、行先の環境が全く分からない以上、有効な準備は不可能に近い。


「……結局、運任せの出たとこ勝負か……」


 それも込みでの『おねリン』だと思うしかないのだろう。


「ん?何か言ったか?」


 自分の自嘲気味な呟きを聞き取れなかった女性に対し、京平は何でもないと言った風に首を振って見せた。


「何でもないならそれでいいんだけどな。ま、寒いってんなら跳ぶとするか。ついでに追手も撒けるだろう」


 その言葉に、エスが女性の肩の上で驚きの声を上げた。


「おいおい、こんな所で跳んで大丈夫なのかよ!」

「何とかなるだろ。今日は調子いいしな。それに、そこに兄ちゃんもいるじゃないか」


 その言葉の意味する所を理解した京平は肩を落とす。どうやら首の危機はまだ去っていないらしい。


「……またですか……」

「あん?ワタシは別にオマエを置いて行ったっていいんだぜ?」

「振ります!振ります!回します!」


 何があろうとも、ここに置き去りにされる事だけは避けなければならない。


「よし、じゃあ、全力で行けよ!さもないと、とんでもない所に跳ぶ事になるぜ!」


 女性がベースをかき鳴らし、詠唱を始める。それに合わせ頭を振り始めた京平だったが、女性の言葉がどうにも気になっていた。


「……とんでもない所って、どんな所ですか?」

「そりゃ、石の中とかそんな所だよ」


 詠唱に忙しい女性に代わり、エスが答えた。


「……石の中」

「ここじゃ、あいつの魔術もホントに安定しないからな。お前次第で精度が決まると言っても過言ではないかもしれないぜ」

「マジかー」


 頭を抱えたいところだが、ヘドバン中だけにそうもいかない。とにかく無我夢中で京平が頭を振っていると、女性のベースが黄金色の光を放ちだし、やがてその光は一行を包み込む。


「行くぞっ!アジトっ!」


 最後は女性のコールに応えるかのように、光と共に京平達の姿が消えてしまう。詠唱に気付いた男達が酒場から飛び出してきたが、時既に遅し。ネオンの灯りの中、誰もいない街の風景を見る事しか出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ