荒野の妖精 11
「いいぞ!もっとだ!もっと回せ!」
今や無数の障壁が女性を取り囲み、レーザーを寄せ付けない。そしてお返しとばかりに放たれた雷は、一人、また一人と確実にその手から銃を弾き飛ばしていく。
「くそがっ!舐めるなっ!」
男達も躍起になってレーザーを乱射するが、悉く障壁に阻まれていた。
「勝負あったな。ま、力さえ出せりゃ、相手になんかなる訳もないしな」
冷静なエスの言葉を耳にした京平は、ふと浮かんできた疑問を口にする。
「力さえって……もしかして、この世界に魔法は存在しないって事ですか?」
「もしかしなくても、そうなんだと思うぜ。なんぜ、まともに使えているのを見るのは久しぶりだしな」
「なるほど……」
実感は無いが、一応役には立っているらしい。
「で、この後どうするんです?」
慣れないヘドバンでそろそろ首が痛い。
「ん?どうって、そりゃ敵がいなくなるまで頑張る、だろうな」
エスが事も無げに言い放った時次の瞬間、入口のスイングドアが激しく押し開けられ、数人の男達が雪崩れ込んできた。
「おいおい、マジかよ……」
敵の増援にエスがうんざりしたように言うが、京平にしてみればそれだけでは済まない。
「……一度変わってもらうってのは無理ですかね?」
「……別に変わるのは吝かじゃねぇが……」
そう言ってエスは鋏を振って見せる。
「オレ様に出来るのは精々この程度だからなぁ……潮を招く程度でしかないぜ?」
確かにエスの今の姿はシオマネキにしか見えない。
「あいつも言ってたろ?これじゃノれないって。お前が休んでいる間にお陀仏になるリスクを背負うってんなら、変わってやるが……どうする?」
「……分かりました、やればいいんでしょ、やれば」
京平はそう言うと半ばやけくそで首を振る。
「言っときますけど、このままだと俺の首がお陀仏になって、みんなお陀仏一直線のコースですからね」
「だってよ」
京平の恨み言をエスは軽く女性に受け流す。
「分かった、分かった。じゃあ、最後は派手に決めようかっ!」
女性はそう叫ぶと、一層激しく弦をかき鳴らし始めた。
「さあさあ、死ぬ気で付いてきな!」
そして京平を煽る。
「死ぬ気でって……もう首取れそうなんですけど!」
「じゃあ、取れるまで回せっ!」
笑いながらそう言った女性の詠唱は、遂に狂気じみた激しさを感じさせるまでになっていた。
「ああ、もう、回せばいいんでしょ!回せば!」
それに引きずられるように京平も激しく頭を振る。
「おっ、こいつはやべぇ」
異様ともいえる二人の姿を目にしたエスは、追加で泡を吐き身を護る壁の強化を図る。
「頭、振れーっ!」
女性の絶叫と共にベースが眩く輝き、そして弾ける。女性を中心に発生した衝撃波は、男達だけを吹き飛ばし壁に叩きつけた。
「すげっ……」
男達は気を失っているのか、ピクリとも動かない。その威力に驚く京平の目の前で、自分を護っていた壁が粉々に砕け散った。
「おー、おー、ギリギリだったな」
事も無げに言うエスだったが、京平は言葉を失ってしまう。
「ただ、これはちょっとやり過ぎじゃねぇか?」
エスがそう付け足すが、女性は気にする素振りも見せない。
「そうか?こんなもんだろ」
辺りを見回し肩を竦める。
「まあ、別にいいけどよ」
エスも本心から追及するつもりはないらしい。
「お前ら……こんな事してタダで済むと思うなよ……」
いち早く意識を取り戻したのは、京平に因縁をつけていた男だ。よろよろと立ち上がろうとするが、足に力が入らないのかすぐにその場に崩れ落ちてしまう。
「タダで?ああ、そうか……」
女性は懐に手を突っ込むと、何枚かのコインを取り出し男めがけて放り投げた。
「……何のつもりだ、てめぇ……」
受け取ることが出来ずに足元に散らばったコインを、男が忌々しげに見る。
「何って……ショウガの代金だよ。タダじゃ済まないんだろ?」
「ふざけんな!そう言う意味じゃ……」
男は声を張り上げ続けるが、女性はそれ以上相手をするつもりはないらしく、呆然と座り込んでる京平へと近づいた。
「おい、生きてるか?しっかりしな!」
そう言いつつ軽く京平の目の前で手を叩いて見せる。
「えっ?あっ、はい!」
現実に引き戻された京平が慌てて立ち上がる。その様子を確認した女性は、カウンターに数枚のコインを置くとさっさと出口へと歩き出した。
「ここは、おねーさんが奢ってやるよ。ついてきな!」
「……ありがとうございます」
この場に置いていかれるなんて、その後の展開は想像したくない。極力、周囲の惨状を見ないようにしつつ、京平は女性の後を追い店を出た。




