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ブラックライン 11

「で、クエストクリアの報酬ってどうなってるんだよ」

「そういや、前の世界で天狗から逃げ出した時も何か手に入ってたよな」

「太郎坊兼光ですね。プレゼントボックスに入ってますよ」


 一応話は聞いていたらしく、神は間髪を入れず答えた。但し視線はテレビから外さない。


「……そのプレゼントボックスとやらの説明してもらったっけな?」


 その態度にイラっとしながらも、努めて冷静に尋ねようとする京平。


「あれ?してませんでしたっけ?サーセン」


 返ってきたのは予想通りの適当な謝罪である。


「で、なんなんだよ、そのプレゼントボックスって」

「読んで字の如くプレゼントを入れておくボックスに決まっているじゃないですか」


 この神に対して一々腹を立てても仕方がない。三日目にしてそう頭では理解しているものの、まだまだ心は追いついていない。言葉の端々に棘が出るのも致し方ない。


「そのボックスとやらはどこにあるんだよ」


 神はやれやれと言った感じに二人の方に向き直ると、いつもの手帳を取り出し、あるページを二人に見せる。


「太郎坊兼光、太郎坊兼光、バイク」


 聖が内容を読み上げる。


「天狗の元から逃げ出せ!はお二人とも成功していますからね。一振りずつゲットしていますよ」

「……それがプレゼントボックス?」


 流石に手帳の一ページとまでは思っていなかった京平が呆れかえったように言う。


「うーん。これが、という訳でもないですけどね」


 じゃあなんなんだよ、という思いが聖達の胸に去来するが、今はそれ以上に気になる事がある。


「で、そこに入っている物はどうすればいいんだよ」

「え?わたくしに取り出したい旨を伝えてもらえれば取り出しますけど。取り出しでも、頂戴でも、ゲットだぜでも、特に規定はないので好きな言葉で意思表示していただければ」

「……それだけ?」


 疑いの目を向けてくる聖達に、神は軽く肩を竦めて見せた。


「何ですか?もっとややこしい方がいいんですか?別にわたくしとしては申請書を書いて頂いたりしたって構わないのですよ。でも、それじゃ面倒でしょう?」


 神はそう言うと懐から一枚の紙を引っ張り出し、二人に向けて掲げて見せる。細かい文字で何やらびっしりと書き連ねられているが、空白になっている個所も多々見受けられる。


「正式な書類としてはこういうのがありますが、これ、使います?」


 二人は無言で首を横に振った。何も環境を自分達で悪化させる必要もない。


「じゃ、太郎坊兼光ゲットだぜって言えば、太郎坊兼光がその手帳から出てくるって事?」


 そう言った聖に対し、神は可哀そうな子を見るような表情を見せた。


「そんな一休さんじゃあるまいし、手帳から出てくる訳ないじゃないですか」

「じゃあ、どっから出てくるんだよ」

「察しの悪い人達ですねぇ。幽世ですよ幽世。あなた方がゲットしたアイテムはわたくしの所に送られてきますので、それを幽世に保管しているのですよ。それとも何ですか?ゲットした瞬間に目の前に出してもらうようにしましょうか?」


 またしても無言で首を横に振る二人。いきなり送り付けられるよりかは、自分達のタイミングで入手出来る方が便利なのは間違いがない。

 それはそれで有難いシステムなのだが、それについて説明もせず、疑問をぶつけられたら逆切れで返してくるという神の器の大きさについては疑問を感じざるを得ない。


「じゃあ、とりあえず太郎坊兼光取り出してみる?」


 気を取り直した聖の言葉に京平が頷きかけるが、それより先に神が口を挟んできた。


「あ、一度取り出したプレゼントは二度としまえないので気を付けてくださいね」

「えっ?」

「出したら出っ放しって事ですよ。ほら、今回は先に伝えましたからね。文句は言いっこなしですよ」


 自慢げにそう言った神だったが、聖達に納得した様子は見られない。


「……何で?」


 聖がストレートに疑問をぶつけると、神は再び可哀そうな子を見るような表情を見せた。


「何でって、あなた一度開けたプレゼント、元に戻せるんですか?」

「いや、それは無理だけど……」

「でしょう?そういう事ですよ」

「いやいや、幽世に戻すだけだろ。俺達が転生する度に死体を幽世に放り込めるなら、アイテムだって放り込めるだろ?」


 聖に代わって京平が噛みつくが、神はそれも軽くいなす。


「死体はアイテムとは違いますよ?」

「そりゃそうだろうよ。だから、そう言う事じゃなくて……あー、もう、いいや」


 なおも言い募ろうとした京平だったが、すぐに思い直して諦めた。神がそう言う以上、そのルールに従うしかないだろう。


「ご納得いただけたようで何よりです。で、どうします?太郎坊兼光」

「とりあえず、やめとく」


 すっかり疲れ切った声で京平が答える。現世で真剣を受け取るのは、厨二心を熱くする以外のメリットが何もない。


「そうですか、了解しました。じゃあ、転生しちゃいます?」


 京平はその言葉に首を横に振った。


「いや、今日はいいや」

「何で?」


 不思議そうに聞いたのは聖。


「お前が十日間満額異世界で過ごす間に十時間経ったんだぞ。今から俺が異世界で十日過ごしたら還って来るの翌朝じゃん。流石にしんどいだろ」

「別に向こうで睡眠とる訳だし大丈夫じゃね?俺も寝ておくし」


 聖にしては真っ当な意見だが、京平に気分の問題だと一蹴されてしまう。


「それにほら、俺は昨日一回多く使ってるからさ。回数合わせておいたほうがいいかなって」

「まあ、京平がそれでいいなら、別にいいんだけど」


 あっさりと引き下がる聖。


「じゃあ、今日は解散という事ですか?」


 神のその言葉を肯定するかのように、京平は手で追い払うような仕草で応えた。


「そういう事。お疲れっしたー」

「仕方ないですねぇ。次の番組も見たかったんですが……」


 ぶつぶつ文句を言いながら重い腰を上げる神。


「あ、やっぱりせっかくなんで合鍵……」

「やらねーよ」

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