表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
289/328

荒野の妖精 10

「はっ?えっ?頭?」


 だが、指示を理解しかねた京平はノるにノれず、訝し気に女性の詠唱を見つめる事しか出来ないでいた。


「おいおい、時化た面してんじゃねぇよ!頭回せって言われたろ?じゃあ、取れるまで回すしかねぇだろうが」


 エスに呆れられたように言われるが、益々ピンと来ない京平はただ首を傾げるばかりだ。


「取れるまで回せって……どういう事です?」


 呑み込みの悪い京平の質問に、エスは焦れたように鋏を振り上げる。


「わっかんねぇ奴だな。とにかく頭回しゃいいんだよ!ほら、こうだよ、こう!」


 エスの身体が小刻みに揺れる。どうやら頭を回しているつもりらしいが、そもそも蟹の頭がどこかも分からない京平には、ただ震えているだけにしか見えない。


「えっと、つまり……ヘドバン?」


 それでも京平なりにそう結論付け、恐る恐る頭を上下させ始めた。


「そうそう、やれば出来るじゃねぇか!もっと、もっとだ!もっと激しく回せ!」


 ようやく動き出した京平に対し、エスが更に煽る。これじゃまるでライブだな、と思いつつ、京平は詠唱に合わせて頭を振る。そんな京平の姿に触発されたのか、女性の詠唱は更に熱を帯び激しさを増していく。同時に彼女の周りに現れる障壁も眩い光を放つようになり、次々と襲い来るレーザーを阻んでいた。最早レーザーは脅威でも何でもなく、寧ろ詠唱を派手に演出する為に放たれているかのようにすら見える。

 その光景に自分が一役買っているであろう事は理解している京平だったが、何がどうなっているのかはさっぱり理解出来ていない。とりあえず頭さえ振っておけば何とかなりそうではあるが、気にはなる。


「これって、いったい何の意味が?」


 頭の動きは止めずに手の中のエスに問いかけると、不思議そうなトーンで答えが返ってきた。


「何って、あいつと《同調(シンクロ)》してるんだよ、《同調(シンクロ)》。……もしかして、何にも感じてねぇ?」


 京平の無言のヘドバンを肯定と取ったエスは、呆れたような口調で言葉を続けた。


「マジか!……まあ、あいつがノれてるからいいっちゃいいんだが……」


 エスの言葉通り、女性の詠唱は激しさを増す一方だ。既に身を護るだけでなく、反撃の《電撃(ライトニング)》を四方八方へとばらまき始めてすらいた。


「まあ、久しぶりの《同調(シンクロ)》だしな……そう言う事もあるか……」

「……その、《同調(シンクロ)》って何なんです?」


 エスの言葉に不穏な空気を感じた京平が思わず尋ねると、エスは面倒そうながらも答えてくれた。


「何って……要はお前があいつの詠唱にノる事で、お前の力もあいつの魔術に乗るんだよ。本来ならあいつの衝動やら情念やらがフィードバックされて、お前のテンションもおかしくなるはずなんだが……ま、気にすんな」


 どうやら自分の状態はエスにも想定外らしい。


「大丈夫なんですか?」


 京平が不安げに尋ねるが、その質問をエスは鋏を軽く振って一蹴する。


「あの調子でご機嫌に雷ぶちまけてる間は問題ないさ。何せ、百人と《同調(シンクロ)》すりゃ、古の龍すら打ち倒せる奴だからな」

「百人のヘドバン……それはもうライブだろ……」


 その様子を想像して苦笑いを浮かべた京平は、エスの呟きを聞き逃してしまう。


「……ま、それでも敵わない相手もいるんだが……」

「えっ?何ですか?」

「いや、何でもねぇ。この世界に来てから、今一つ魔術の効きが悪かったから、あいつもノるにノれてなかったんだが、この様子だと大丈夫だろ」


 エスが言う通り、女性はフルスロットルで詠唱を続けている。


「因みに、オレ様はあいつの使い魔だからな。この泡の壁だって、あいつの魔力由来だ。あいつの気分がキレたら、オレ様達もお陀仏だから、せいぜい気張って頭回せよ!」

「はっ?えっ?あっ、はい」


 唐突な告白にツッコむことも忘れて、頭を振り続ける京平。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ