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荒野の妖精 3

「ん?」


 ドアの前に立った京平は、予想外の光景に眉を顰めた。ドアと壁の隙間から中の様子を窺えるかと思っていたのだが、そうは問屋が卸さなかった。全ての光を吸い込んでしまうかのような漆黒の闇が、カーテンのように視線を遮っているのだ。


「……謎テク?……流石に、魔法じゃないよな?」


 《暗闇(ダークネス)》の魔法が存在したなら、こんな感じなのかもしれない。そう思った京平だったが、すぐにその考えを振り払った。ただでさえ、SFと西部劇か混在している一筋縄ではいかないであろう世界っぽいのだ。更に魔法の要素まで足されるのは、正直なところ御免蒙りたい。

 どうしたものかと首を捻る京平。遮られているのは視界だけで、音は丸聞こえだ。どうやら酒場なのは間違いないだろう。粗野な笑い声が、闇の向こうのあちこちから聞こえてきている。

 京平は気乗りしない様子でドアに手をかける。中に何が待ち受けていようとも、ここまで来て開けない選択肢は無かった。

 ふと扉の縁に手をかけた指先を見ると、闇に飲み込まれその存在を確認できない。指先を失ったかのような錯覚に襲われた京平は慌てて手をひっこめるが、勿論指は無くなっていない。

 ホッと胸を撫で下ろした京平は、今度は思い切ってドアを押し開けた。

 ドアはギィッと軋んだ音を立て、内へと開く。闇のカーテンもまた、その動きに追随するかのように開いた。


「!」


 中は予想通り西部劇に出てくるような酒場だった。フロアのあちらこちらで荒くれ者達が管を巻いている。

 京平が店内に足を踏み入れると、波が引くように喧騒が止んだ。一瞬で店中の注目を集めた京平は、気圧された事を悟られぬよう殊更ゆっくりと辺りを見渡すと、カウンターへと足を向けた。客の大半はそんな京平の動向を密かに窺っているが、中には露骨に胡乱な視線を向けてくる者もいた。


「……まずいなぁ……」


 心の内が思わず漏れてしまう京平。一見すると西部の荒くれ者に見える客達だったが、その腰にぶら下がっているのは黒光りするリボルバーなどではない。何だかよく分からない光を放つ、銃らしき形をした何かだ。そこから放たれるのがレーザーだとしてもきっと驚かないだろう、と京平は妙な納得の仕方をしつつ、次の展開に頭を抱えていた。どう考えても自分の立ち位置は、そんな地元の荒くれ者達に因縁を付けられる余所者である。穏便に済む未来は見えない。

 だが、幸いにも何事もなく京平はカウンターへと辿り着いた。そのまま薄汚れたスツールに腰掛けると、京平への興味を失ったのか喧騒が戻る。ホッと胸を撫で下ろした京平だったが、粘りつくような視線は無くなっていなかった。


「……」


 僅かに渋い表情を見せた京平だったが、気を取り直してカウンターの内へと視線を向ける。顔の半分を金属のパーツに置き換えた厳ついマスターが、いつの間にか音も無く近寄ってきていた。無表情で手にしたグラスを磨きつつ、京平に目を向けている。


「……えっと……」


 メニューが出てきそうな様子はない。何にしようか考えるふりで首を捻り、カウンターに座る他の客のグラスの中身を覗き込もうとする。何度か角度を変えつつ挑戦していると、チラッと琥珀色の液体が波打つのを見ることが出来た。


「……じゃあ……」


 残念ながら液体が何かまでは判別出来なかったが、何とかそれっぽい注文は出来るだろう。


「バーボン、ロックで」


 京平は精一杯の渋さを出しそうと、斜に構えて注文した。それを聞きつけた店内の客達がどっと沸く。

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