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荒野の妖精 2

「西部劇?……いや、SF、なのか?」


 煙の、そして光の発生源にたどり着いた京平は、その光景に思わず首を捻った。

 一見すると転がるタンブルウィードが似合う荒野の寂れた宿場町。小石と砂利が敷き詰められた通りの両側には木造の家屋が立ち並ぶ。窓には薄汚れたガラスが嵌められ、その窓辺には同じように薄汚れたカーテンが垂れ下がっていた。まるで西部開拓時代の街並みのように見えるが、それにしては妙な点があった。


 その最たるものが光源だ。京平が目標としてきた光は、幾つかの建物に掲げられたネオンサインから発せられたもののようだった。大半はうすぼんやりとした光を放っているが、中には今にも消えてしまいそうに明滅しているものもあり、辺りのうら寂しさに拍車をかけている。古びた雰囲気こそ西部劇だが、その灯りは不釣り合いだ。


 首を傾げつつ街に足を踏み入れた京平は、あちらこちらへと視線を向けながら煙の見える方へと歩みを進める。人通りこそないが、時折建物の中から生活音が聞こえてきたりと、人がいない訳ではないらしい。

 そのまま歩き続けた京平は、やがて街の中心部へと着いた。そのこには一際派手なネオンを掲げた大きな建物があり、煙突からは細い煙が絶え間なく上がっていた。正面にはスイング式の扉があり、隙間からは中の喧騒が漏れ聞こえてきていた。


「酒場、なんだろうな」


 隣には厩もあり、毛色の違う数頭の馬が整然と並んで立っている。その光景にまたもや違和感を覚えた京平は、まずは厩へと近付いた。そしてそこに並ぶものの正体に気付き、思わず驚きの声を上げた。


「機械なのかよ!」


 京平が近付いても微動だにしない馬達の身体は、ネオンの光を鈍く反射している。鹿毛、栗毛、芦毛と、様々な毛色の馬達だったが、その輝きは一様にメタリックだ。


「じゃあ……SF、だよな……」


 そう呟いた京平だったが、その心中は穏やかではなかった。どうやらここは単なる西部劇でもなく、単なるSFでもない、そんな世界らしい。面倒、の二文字が頭に浮かぶ。どう考えても、一筋縄で行ける気がしない。

 暫くの間、呆然とメタリックボディを見つめていた京平だったが、馬達は相変わらず無反応だ。その姿にため息をついた京平は、こうしていても何も始まらないと、再び酒場らしき建物へと目を向けた。そこにあるのは相変わらずの喧騒だが、中で待ち受けているのがウエスタンな荒くれ者とは限らない。

 もう一度ため息をついた京平は、軽く頭を振る。そもそも相手がウエスタンな荒くれ者が相手だったとしても、容易に事を進められるわけでもない。


「結局、出たとこ勝負なんだよな……」


 どんな世界に来ているか分からない以上、郷に入れば郷に従うしかないのだ。


「まあ、クプヌヌがいなさそうなのだけは救いか」


 妙菫達の事が気にならない訳ではない。だが、今の自分があの世界に舞い戻ったところで何か出来る訳でもない。胸の内に湧き上がってくる苦い思いを押し殺しつつ、京平は酒場の入口へと向かった。


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