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荒野の妖精 1

 いつも通り一瞬意識が遠くなったかと思うと、そこはもう異世界だ。

 少しばかり痛む頭を押さえながら目を開けた京平は、ゆっくりと辺りを見回し、大きなため息をついた。


「……またかよ……」


 力無く呟く。

 目の前に広がるのは荒涼たる大地。また”あの”世界を引いてしまったのかと天を仰いだ京平だったが、どことなく違和感が無いでもない。少しばかり眉を顰めると、再度辺りを見回してみる。荒れ果てた大地が広がるばかりで、モフモフはおろかヌメヌメすら見当たらない。


「……」


 拭い去れぬ違和感に首を傾げる京平だったが、こうして立ち尽くしていても何も始まらない。大きく息を吐いた京平は、とりあえず歩き出す。特にこれといった目標も見当たらない。進行方向に何か有る事を祈るばかりだ。

 渋い表情で歩みを進めていた京平だったが、しばらくしてようやく違和感の正体に気付いた。


「……暑くないな」


 クプヌヌのいた世界は暑かった。それに比べると肌寒いと言ってもいい。空を見上げると太陽と思しき存在が光を放っているが、こうして見ると何処か寒々しい光のようにも思える。


「別の世界、なのか?」


 またもやクプヌヌの世界を引いてしまったかと、うんざりしかけていた京平の表情が僅かに緩む。勿論、クプヌヌの世界の寒い地方に来ている可能性も否定しきれないだけに、油断は出来ない。


「何にせよ、何か……誰か……を、見つけないとな……」


 ただ荒野を彷徨い歩いた挙句、暑さに負けて還らざるをえなかった聖の例がある。幸い今のところ低い気温は自分に味方してくれているが、太陽が沈んでしまうと寒さという敵にならないとも限らない。そうなる前に現状を打破出来なければ、凍えて還る羽目になるだろう。


「……」


 嫌な展開を想像した京平の顔が再び曇る。あり得ない、とは言い切れないのが『おねリン』である。「暑い地方があれば、寒い地方だってあるに決まってるじゃないですか」と、ここぞとばかりに勝ち誇ったように言ってくる神の姿が容易に目に浮かぶ。一人で勝手に想像してしまった京平は、一人で勝手にうんざりして肩を落とす。とは言え、そうならない為にもとにかくどこかへと辿り着かなければならない。


 意を決して歩みを再開する。


 だが、行けども行けども目に入ってくるのは砂に塗れた薄ら寒い世界だけである。そうこうしている間に日も沈み始め、京平が危惧した通り気温も下がりだした。


「まずいな……」


 厳しい表情で独り言ちるが、それで状況が好転するわけもない。とにかく何とかしなければ、と足を速める。こうなると後は自分の運を信じるしかない。

 『おねリン』を始めてからというもの、己の運ほど自信が無いものものなかった京平だったが、どうやら今日はついていたらしい。

 日は沈み、僅かな陽光の残滓が空を金色に輝かせている。夜が来る、と思わず天を仰ぎかけた京平だったが、その目に突然飛び込んできた光景に動きを止めた。それは微かに立ち昇る一筋の煙だった。


「街、か?」


 進行方向に見える煙の発生源は仄かに明るい。明らかに陽光とは違うその色味は、京平にしてみればまさしく希望の光だった。

 気温は既に寒いと言っていい。このペースで寒くなり続けるとしたら、外で夜を越すのは至難の業だろう。


「頼むぜ、もうちょっと続いてくれよ、俺の運」


 鬼が出るか蛇が出るか。だが、例えそこに何があるとしても、京平に他の選択肢はない。

 街であることを祈りつつ、京平は光へ向かって駆け出した。

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