走れヒメス 9
「ねえ、ボクといっぱい遊ぶってのを、クエストに出来ないかな?」
「へっ?」
今度は穂波がヒメの言葉を理解出来ない番だった。そのキョトンとした表情は、さっきのヒメを彷彿とさせる。
「だーかーらー、クエストならホナミーだって心置きなくここにいれるでしょー。遊んでくれたら賽銭箱もあげるしさー」
そう言ってヒメがどこからか取り出した賽銭箱は、京平の部屋に鎮座する社の前に置かれた賽銭箱の小型版のように見える。
「えっと、クエストってのは、この世界の担当者が決めるらしいから、そういうのは無理なんじゃないかな」
予想外の提案に、穂波は戸惑いを隠せない。
「じゃあ、ちょっと訊いてみてよ。クエストクリアを告げられたって事は、誰かと話が出来るんだよね?」
話が出来るのは私の世界の神なんだけど、と心の中では反論した穂波だったが、ヒメの姿を見る限り、とにかく話だけでもしてみない事には納まらないのは明らかだ。
「分かった、訊いてみるね」
一旦自分の話は置いておき、まずはヒメの提案について確認しようと神に声をかけた。
「ねえ、ちょっと、訊きたいことがあるんだけど?」
「またですか?今いい所なんですから、後にしてくれません?」
返ってきたのは不機嫌そうな神の声だ。
「は?おはようからおやすみまで、あなたに寄り添う転生の神とか言ってたのはどこの誰よ」
穂波が負けず劣らず不機嫌そうな声を出すと、神は一瞬でトーンダウンした。
「えっ?そんな事言ってましたっけ?」
全力で誤魔化し笑いを浮かべているであろう姿が目に浮かぶ。
「それはもう、『おねリン』の説明聞かされてる間に何度もね。どうせ、ダラダラとテレビ見てるだけなんでしょ?後でサブスクなり配信なりで見なさいよ」
「分かってませんねぇ。覇権アニメはリアタイ視聴してこそなのですよ」
そう反論した神だったが、勝ち目がない事は誰よりも知っていた。
「あっ、既に正座しておりますので、その点はご心配なく」
「いっそのこと、そのまま死ぬまで正座してればいいのに」
呆れかえった穂波の言葉に、神は乾いた笑いで応える。
「ハハハ、何を仰いますやら。わたくし、神ですよ。死ぬなんてこと、ある訳ないじゃないですか」
だが、穂波の反応がないと見るや、すぐにその場を取り繕う。到底神とは思えぬ変わり身の早さだ。
「そ、それで、訊きたい事とは何でしょうか?」
「ヒメがさ、一緒に遊ぶってのをクエストにしてほしいって言うんだけど、出来たりする?」
「はい?そんな事……」
出来る訳ないと一蹴しようとした神だったが、すぐに算盤を弾き直した。仮にクエストにする事が出来たなら、延長料金が発生する可能性が高い。毟り取られた石を回収する絶好のチャンスだ。




