走れヒメス 7
「ねぇ」
怒気をはらんだ声で、神に呼び掛ける。
「はいはい、何でしょう?」
神の返答はいつも通り軽い。
「何でいきなりクエストクリアになってるのよ」
「何でって言われましても……クエストをクリアしたからに決まってるじゃないですか」
残念な子を見るような目をしているに違いない、と眼前にその姿がなくとも容易に想像出来た。そしてその事がまた、腹立たしさに輪をかける。
「そう言う事じゃなくて。クエスト発表されてないじゃないって話よ。だいたい、この世界に来てからあんたの声聞くの初めてなんだけど?」
「あれ?そうでしたっけ?サーセン」
聞き飽きた誠意のない謝罪。現世ではさぞヘラヘラと笑っている事だろうと、穂波は一人むかっ腹を立てる。
「ちょっと」
「まあまあ、怒らない怒らない」
穂波の声が一段と低くなるが、神は自分のペースを崩さない。
「そういう契約になってますので、仕方がないんですよ」
「契約?誰とよ」
「決まってるじゃないですか。そちらの世界の担当者様とですよ」
そうか契約か、と納得出来る訳ではないが、神同士の契約だと言われてしまえばどうしようもない。
「何でそんな事になってるのよ」
半ば愚痴のように口をついて出た穂波の言葉だったが、聞きつけた神は律儀に答えを返してくる。
「クエスト内容が分かれば、誰しもが櫛名田比売に協力するだろう?それじゃあ面白くない、との事です」
なるほど、と今度は納得する穂波。この世界の担当者はきっと素戔嗚尊に違いない。面白くないでルールを決める辺り、この世界の素戔嗚尊もなかなかいい性格をしているようだ。
「改めて確認なんだけど。ワールドクエストって、どの世界にも必ずあるの?」
「勿論ですとも。よりその世界の事を知ってもらう為の、素晴らしいシステムですから!」
絶対胸を張ってるなと思いつつ、穂波は質問を続ける。
「今回みたいに事前に発表されない時でも、クエストは存在するって考えていいのね?」
「ええ、ええ、勿論ですとも」
「そっか、分かった」
釈然としない点はあるが、一つ明らかになった事実があるだけでも良かっただろう。
「いえいえ、どういたしまして。また何かございましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください。それでは」
話が済んだと見るや否や、神は挨拶もそこそこに話を打ち切ってしまった。どうせテレビでも見ているんだろうと呆れた穂波は、一度大きく深呼吸をして気持ちを落ち着けると踵を返す。
何はともあれ、ヒメ達をリセマラ地獄から解放する事が出来たのだ。この喜びを早く共有したい。
小走りでヒメ達の元へ戻る。どこか落ち着かない様子で辺りを見回していたヒメ達だったが、穏やかさを取り戻した穂波の姿にホッとした表情を見せた。




