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走れヒメス 6

「えっ?もう出来たの?」


 穂波は怪訝そうだ。醸造や蒸留が一朝一夕に出来るとは思えない。


「ふふん。ボクのおじいちゃんを舐めてもらっちゃ困るんだな。なんてったって、酒解神様だよ。材料を上から入れたら、下から……」

「あっ、ストップ!やめて!聞きたくないっ!」


 全てを察した穂波は、慌ててヒメの話を遮った。神話として馴染みのある話でも、実際に目にするとなると反応に困る。気付かなかった事にするのが一番いい。


「何でもいいから、さっさと呑ませておくれよ」


 お構いなしの大蛇が催促する。ヒメは瓢箪の栓を抜くと、小さくなった大蛇の口に酒を流し込んでやった。


「ほうほう」


 あっという間に試作品一号を飲み干した大蛇の首が快哉を叫ぶ。そしてすぐさま二号も呑ませるよう要求するが、そうはさせじと別の首に抑え込まれてしまった。


「ちょっとー、喧嘩しない」


 そう言いつつヒメが二号の栓を抜くと、漁夫の利とばかりに第三の首が伸びてくる。だが、酒にありつく前に第四の首に弾き飛ばされしまい、結局その隙をついた第五の首が二号を呑む権利を掻っ攫っていった。


「ん?これは何だい?」


 一気の飲み干したものの、ツイカでもヴィンアルスでもない味に戸惑いを見せる。


「二号はね、桃で造ってみたお酒だよ」

「ふむ。これはこれで、あり、だね」


 満足げに首を振る大蛇を見たヒメは、手を叩いて喜んだ。


「ホント?桃だと伊邪那美様の所にいっぱいあるから、すぐに大量生産出来るぞって言って、おじいちゃん張り切って準備始めてたもん。ダメだって言われたらどうしようかと思ったよ」


 流石ヒメの祖父だけあって見切り発車っぷりが凄いと思う穂波だったが、当然口には出さない。


「ハハハ、大山祇神様が造られるお酒さ。美味しいに決まってるじゃないか。ああ、早く浴びるように呑みたいねぇ」


 もうその時を想像しているのか、大蛇は心ここにあらずと言った様子だ。


「ただ、"ついか"と"びんあるす"は原材料の確保から始めないとダメだから、ちょっと時間かかるって」


 本来なら残念な報告であるはずだが、大蛇は全く気にしていない。


「ああ、構わないよ。桃の酒は呑めるんだろう?」

「うん」


 どうやら酒造の件も上手くいったらしい。大蛇も納得している様子だし、ヒメ達も解放されるに違いない。自然と笑みが零れてくる穂波だったが、その耳にいい気分を台無しにする声が届く。


「おっめでとうございます!櫛名田比売を時の環から解き放て、クリア!生弓生矢ゲーット!」


 一瞬で般若の形相へと変化した穂波。その変貌っぷりに驚き心配そうに見てくるヒメ達に対し、大丈夫と手で制すると厳しい表情のままその場から離れた。

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