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走れヒメス 5

「……お互い様だし、いいけど。じゃあ、続きいくよ?いい?」

「うん」


 ヒメが頷くと、穂波は一度大きく息を吐く。そして目と目で何となくタイミングを計る。


「ありがとう、ソウルメイトよ!」


 二人は同時に言うと、ひしと抱き合った。お互い素に戻る瞬間があったせいか、泣くほどのテンションにはもっていけなかったものの、せめて嬉しさを表現しようとお互いの背をバシバシ叩き合う。

 大蛇はそんな二人の様子を呆れたように見つめていたが、やがて自分の番だと思い出し二人に近付くと、こう言った。


「お前さん達の望みは叶ったぞ。お前さん達は、私の心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、私をも仲間に入れてくれまいか。どうか、私の願いを聞き入れて、お前さん達の仲間の一人にしてほしい」


 その台詞を聞いたヒメは暫く余韻を楽しむかのように小さく頷いていたが、パッと穂波から身を離したか

と思うとパンッと手を叩いて言った。


「はいっ、カットー!」


 ポカンとする穂波達を見渡しつつ、台詞を続ける。


「これにて《走れヒメス》クランクアップです!ホナミンティウス役ホナミー、オロニス役八岐大蛇、そしてヒメス役ヒメ、皆さまお疲れ様でしたー」

「あっ、はい……」


 それぞれに対し盛大に拍手するヒメの勢いに呑まれて一度は頷いた穂波だったが、やはり確認せずにはいられない。


「何、それ?」

「偉いエイガカントクとやらの自叙伝に書いてあったんだー。撮影終わった時に言うんだって」

「いや、撮影じゃないし」

「いいでしょー、言ってみたかったんだもん」


 拗ねたように言うヒメの姿に、穂波が笑みを浮かべる。


「ちょっとー、なに笑ってるのさー」

「いや、可愛いなーって」


 照れ隠しに穂波をポカポカと叩くヒメ。穂波は笑顔を崩すことなく、されるがままだ。そんな和やかな空気の中、大蛇がおずおずとヒメに声をかけた。


「お楽しみのところ申し訳ないんだけど、酒の方はどうなったのか教えてくれるかい?」


 声音は申し訳なさそうだが、紅く光る目は真剣そのものだ。


「そうだ、お酒!どうだった?」


 《走れヒメス》のクランクアップでヒメの納得という条件はクリアしたと見ていいだろう。だが、酒が出来ないとなると大蛇が納得したと判定してもらえない可能性が出てくる。

 心配そうな表情で見てくる穂波に、ヒメは勢いよくVサインで応えた。


「ふっふっふ。これを見よ!」


 不敵な笑みを浮かべつつ、腰に下げていた二つの瓢箪を高々と掲げて見せる。


「おじいちゃん作の試作品一号と二号だ!」

「おお!」


 歓喜の声を上げた大蛇が、待ちきれないとばかりに全身を打ち震わせる。

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