表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
268/328

異世界人の大蛇退治 16

「私が挑戦者を食って素戔嗚に斬られて一区切り。そして私が甦らせられると、そこからまた新しい挑戦者を待つって寸法さ」

「それは、斬られ損にも程があるんじゃ……」

「まあ、私も人食えてるから、そこまで損でもないんだけどね」


 口調こそ穏やかだが、どこか不気味な響きを帯びたその言葉に穂波は思わず後退る。その様子を見た大蛇は、おかしそうに笑った。


「ハッハッハ。そんなに怯えなくても大丈夫だよ。今、お前さんを食ったらヒメに怒られるからね。それに、今回は私も期待しているんだよ。"ついか"に"びんあるす"だっけ?あれは本当に美味かった」


 残った樽を物欲し気に見る。


「それに、お前さんが"あんどろめだ"を知っていたのも得点が高い。あれでヒメの好感度がグッと上がったからね」

「そうなの?」

「それはもう。"あんどろめだ"を助ける"ぺるせうす"がイケメンな事を随分と羨ましがってたからね」


 確かに素戔嗚尊は髭面のいかつい姿で描かれることが多い。うら若き乙女としては、ギリシャ神話の英雄を羨ましがるのも分かる。


「遂には『ボクもやるー』って言い出す始末さ。仕方がないから、最近はああやって岩に縛り付けていたんだけど、ここまで誰一人として分かってくれなくてね。だから、お前さんの『あんどろめだみたい』って言葉は、本当に嬉しかったんだろうさ」


 まさか目にした光景が、本当にクシナダヒメがアンドロメダに憧れてのシーンだったとは思いもしなかった穂波。本当にふと思った事を口にしただけだったのだが、何が幸いするか分からないものである。


「その後、《走れメロス》にも付き合ってくれているから、ヒメの満足度は高いと思うんだよ。後は酒さえ造ってくれれば、私も満足。ようやく、この繰り返しから抜け出せるってもんさ」

「全ては大山祇神次第って事ね」


 果たして蒸留酒を日本の神様が造れるのか。気がかりなのはその一点だ。


「私も直接の面識は無いから確証はないがね。まあ、神様なんてのは頭のおかしな力の持ち主ばかりだから、きっと何とかしてくれるだろうさ」


 これぞまさに神頼みね、と苦笑する穂波。叶うならば、今すぐにでも大山祇神社に参拝したいところだ。


「後はヒメが納得するかどうかだけど、これはもうお前さんにかかっているとしか言いようがない」


 どこか楽しそうな口調で大蛇が言う。


「《走れメロス》ごっこを完遂しろって事ね……」


 クライマックスの例のシーンは避けて通れないという事だろう。


「私は《走れメロス》で良かったと思うけどね。これが《変身》や《白鯨》にハマっている頃だと何をさせられたもんだか」


 確かに虫やら鯨やらをやれと言われる事に比べれば、ホナミンティウスで済んでいるのは幸運かもしれない。


「頑張るしかないか」


 諦めたように呟く穂波。どうせ見ているのはヒメと大蛇だけなのだ。旅の恥は掻き捨てという言葉もある。この際、全力でホナミンティウスを演じてやろう、と決心を固める。


「そうそう、その意気さ」


 穂波の決意を感じ取ったのか、大蛇が勇気づけるかのように笑う。


「せいぜい私達を楽しませておくれ。そうすればきっと、未来は切り開かれるだろうからね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ