異世界人の大蛇退治 14
「ヒメなんかは、これ幸いと本来の自分を解き放ったもんだから……最早、お前さんの知っているクシナダヒメとは別人じゃないかい?」
「確かに」
ヒメとのファーストコンタクトを思い出した穂波は、苦笑いを浮かべた。元気いっぱいに話しかけてくるボクっ娘が、クシナダヒメだとは思いもしなかったものだ。
「私は今のヒメの方が好きだけどね」
思わず本心を漏らした事に気付いた大蛇は、慌てて誤魔化すように言葉を続けた。
「まあ、こんなところさ。他に聞きたいことはあるかい?」
「勿論。スサノオ様が来ないってのは分かった。じゃあ、この話はこの後どうなるの?」
「この世界の肝はそこだよ」
よくぞ聞いてくれたとばかりに、勢い込んで話す大蛇。
「素戔嗚尊が私を退治し櫛名田比売を救い、この地に平穏をもたらし大団円。それが元の話だろ?じゃあ、私が大人しくしてれば万事解決。それで終わり、となれば良かったんだけど」
八つの首がやれやれとばかりに揺れる。
「ならないの?」
「素戔嗚が難癖をつけてきたのさ。私が生贄を要求するのをやめる合理的な理由がないってね」
「合理的ねぇ……」
神話に合理的も何もない気がする穂波だったが、素戔嗚尊が言わんとしている事は分かる。難癖は言い過ぎの気もするが、大蛇にしてみればそうではないらしい。
「って言うか、スサノオ様いるの!?」
てっきり素戔嗚の存在そのものがない世界だと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。
「勿論さ。上手くいかなかったら、素戔嗚有りでやらざるを得ないだろう?」
いやだいやだと八本の首が横に揺れる。
「まあ、今は天照様の代わりに天岩戸に幽閉されてるんだけどね」
「そうなんだ……」
「とにかく、食べたら殺される。食べなければ殺されない。十分な理由じゃないか。この二択なら、普通食べないを選ぶだろ?」
まったく理解出来ないとでも言うように、大蛇の全身が大きく震える。
「それどころか、当事者のヒメまでもが、『ただやめるだけなんて、ボクも納得できなーい』とか言い出す始末。おかげでこのざまさ」
「このざま?」
「ああ。私とヒメが納得する展開になるまで、延々と同じ事を繰り返しているんだよ」
「……つまり、リセマラ?」
穂波の言葉が理解出来なかったのだろう。大蛇は首を傾け怪訝そうに聞き返した。
「りせまら?なんだい、それは?」
「ううん、何でもないから、続けて」
誤魔化し笑いを浮かべた穂波が続きを促す。ガチャの概念の説明など、面倒な事この上ないだろう。
「そう言う訳で、今はたまにやってくる挑戦者の案に乗っかって、ヒメも私も納得出来る展開になるのを待つ日々なのさ」
「なるほどねぇ」
なかなか大変そうなリセマラである。人間と大蛇が同時に納得出来る展開、と言われてもなかなか想像出来ない。




