異世界人の大蛇退治 8
「まあ、見ての通りの子だからねぇ……仕方がないと言えば仕方がないさ」
穂波に同情するかのように言った大蛇は、次の瞬間背後から掛けられた声に全身を震わせて驚いた。
「見ての、通りって、どういう、事なのさ」
いつの間に戻って来たのか、そこには両膝に手をつき息を切らしたヒメが居た。苦しそうな表情を浮かべつつも大蛇を睨みつけている。
「いや、別に、どうってことはないさ……」
突然の事に動揺した大蛇は、上手い言い訳一つ返せない。
「どうしたの?ええっと、ヒメス?」
助け舟と言う訳でもないが、穂波が口を挟む。ヒメがどこへ向かうのかは分からないが、時間は三日しかないのだ。ここで時間を取られていい事はないだろう。
「よく考えたら、ボク、《ついか》や《びんあるす》が何か知らないんだった」
穂波の質問にテヘッと笑って見せるヒメに、九対の生暖かい視線が突き刺さる。
「そんな目で見ないでよー。ボクだって、たまには失敗する事だってあるさ」
そう言って頬を膨らませて拗ねるヒメの姿は、穂波の目にはとても可愛く映った。そしてそれは大蛇も同じだったのだろう。
「ホナミンティウス、説明してやってくれるかい」
穂波に話をするよう促す。
「ああ、うん。私もヴィル姉さんに聞いた程度の事しか知らないんだけど……まず、ツイカね。これはプラムで造った蒸留酒で……」
穂波の説明を聞いた姫の表情が、瞬く間にポカンとしていく。
「ぷらむ?じょうりゅうしゅ?」
鸚鵡返しに呟きつつ、ヒメは可愛く小首を傾げた。
「プラムってのはすももなんだけど。すももは分かる?」
穂波の説明に頷いたヒメだったが、相変わらず首を傾げたまま大蛇を見る。
「すももかぁ……桃じゃダメかな?桃だったら伊邪那美様に言えば貰えるんだけど……」
「そりゃ、駄目だろう。桃とすももじゃ随分と違うさね」
「そっかー」
肩を落として分かりやすく落胆するヒメの姿に、大蛇は慌てて言葉を付け足した。
「ま、まあ、桃で造っても美味しいかもしれないしね」
それは例え美味しくとも最早ツイカではない別物だろうと思う穂波だったが、勿論口には出さない。
「うーん、どうかなー。一度やってみるしかないかなー。でも、ダメだったらアレだし、やっぱすももも何とかしないとダメだよねー」
暫くうんうんと唸っていたヒメは、やがて一人納得したように頷いた。そして穂波に続きを話すよう声をかける。
「で、じょうりゅうしゅってのは?」
「醸造酒を蒸留して造ったお酒の事なんだけど……」
説明を再開した穂波だったが、蒸留をどう説明したものかと言葉に詰まる。そんな穂波に構わず、ヒメは理解出来た部分について一人で盛り上がった。
「醸造酒は分かるよ!そっかそっか。つまり、すももでお酒造って、それをじょうりゅうすればいいんだね?」
「まあ、簡単に言えばそうなんだけど……」
「おっけー、分かった。それでお酒が出来るんだったら、きっとおじいちゃんが知ってるよ」
大山祇神の力が及ぶ範囲がどの程度かは分からないが、この際だから知っていてほしいと願う穂波。ヒメを介して伝言ゲームをするよりかは、大山祇神の知識に賭ける方が正解に近い酒が出来るに違いない。




