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異世界人の大蛇退治 7

「もう、しょうがないなー」


 なかなか来ない穂波に痺れを切らしたヒメは、ならばと自分から穂波へ駆け寄る。避ける、逃げる、という選択肢が頭に浮かんだ穂波だったが、結局大人しく抱き着かれることを選んだ。この世界で話を進めようとするなら、この茶番に乗るしかないのだろう。

 胸の中の飛び込んできたヒメがきつく穂波を抱きしめる。


「ボクだって魂の半身たるキミを失うなんて絶対にイヤだもん。だから、必ず帰ってくる!」

「……その前に、幾つか説明してほしいんだけど」


 とりあえずヒメの背中に手を回しそれっぽいシーンを演出した穂波だったが、頭の中は疑問で一杯だった。少しだけでも解決できるものなら解決しておきたい。


「何も言うな、ホナミンティウス。このヒメスを信じろ。必ずや三日目の日暮までに帰り、邪知暴虐の獣、オロニスに人の心を分からせてやる」

「あっ、はい……」


 こうなると完全に《走れメロス》である。ならば、ヒメは三日目ギリギリに帰ってくる事になるのだろうから、もう大人しく話に乗っかっておくしかない。


「分かってくれたか、ホナミンティウス!」


 穂波から体を離したヒメは、どこからか取り出した縄で穂波を縛り始める。


「そのセリヌンティウスみたいに言うのやめて」


 そんな穂波の力のない抗議でやめるヒメではない。手際よく穂波を縛り上げたヒメは、そのまま大蛇の目の前へと引っ立てていった。


「さあ、オロニスよ!このホナミンティウスを置いていく!だが、見ているがいい!三日の後、ボクは必ずこの地でソウルメイトと再会するのさ!」


 力強く宣言し、大蛇の前に穂波を転がす。


「ああ、楽しみにしているよ、ヒメス。お前さんはきっと遅れてくる」

「フンっだ」


 大蛇の挑発に鼻を鳴らして応えたヒメは、穂波に拳を突き出して見せる。


「じゃあ、行ってくるよ、ホナミンティウス!」

「あっ、ちょっと……」


 さっと身を翻し駆け出したヒメは、呼び止めようとする穂波の声にも振り返らない。そのまま脱兎の如く走り去ってしまった。


「あー……」


 小さくなっていくヒメの後姿を眺めながら、のそのそと起き上がった穂波は、大蛇の前に座り直す。そしてそのまま胡乱な視線を大蛇へと向けた。大蛇にもヒメの茶番に乗った罪悪感が少しはあるのだろう。穂波のそんな視線を嫌って首を背けるが、穂波は逃がさないとばかりに別の首へと視線を向ける。何度か同じやり取りを繰り返すと、根負けした大蛇が渋々と言った感じで穂波に向き直った。


「……何か、言いたい事でもあるのかい?」

「そりゃ、言いたい事は山ほどあるけどさ」


 現状を何一つ理解出来ていない穂波にしてみれば、聞きたい事だらけと言ってもいい。だが、今はそんな事より、もっと気になる事があった。


「ヒメ、何も持たず、何の話も聞かず、どこかへ行っちゃったけど……大丈夫なの?」

「あっ」


 大蛇の動きが止まる。如何に大山祇神とは言え、この世界には存在しないであろう酒を名前だけで造れるとは思えない。


「これは困ったねぇ」


 大蛇が言うが、だからと言って穂波達に出来る事は何もない。


「一応聞いておきたいんだけど、お酒が造れなかった場合、私はどうなるのかな?」

「それは……」


 首を掲げて少し考え込んだ大蛇は、やがて少し申し訳なさそうに答えた。


「食べられるしかないだろうね」

「だと思った」


 予想通りの答えなだけに、穂波にもショックはない。そもそも造り方が分かっていたとしても、蒸留酒が三日で出来るはずもない。後は神の力に期待するしかないだろう。

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