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異世界人の大蛇退治 5

「ほう。これかい?では、早速……」


 主たる首がヴィンアルスの樽へと向かおうとした瞬間、別の首の一つがその身を勢いよくぶつけ、主たる首を弾き飛ばしてしまった。そのまま素早く樽の山へと首を伸ばし、頂上の樽を咥えてしまう。それを見た残りの首達も我先にと樽の山へと殺到し、それぞれ樽を奪い取った。


「お酒の事となると、ホント、見境なしだねー」


 ヒメが呆れたように呟く。主たる首もその言葉に同意するかのように吠え、首をのたうち回らせた。残りの首達は自分の確保した樽を守ろうと、右往左往する。ひとしきり暴れて気が済んだのか、最後に大きく吠えた主たる首は、そのままヴィンアルスの樽に首を伸ばし一樽確保する。後に残されたのは二樽。自然と一首一樽のルールが生まれていたらしい。


「どうせなら小さくなったらいいのに。そうすればいっぱい飲めるようになると思うんだけどなー、ボクは」


 ヒメの言葉に、思い思いの恰好でヴィンアルスを飲もうとしていた首達の動きがピタリと止まる。そして次の瞬間その体が縮みだし、瞬く間に巨象程度の大きさになってしまう。その様子を呆然と見つめていた穂波の前で、大蛇の首達は嬉々として樽の中に頭を突っ込み、ヴィンアルスを堪能し始めた。


「ああ、うん。ようやく理解出来る構図になったわ」


 目の前で繰り広げられている光景は、まさに素戔嗚尊の大蛇退治の一シーンのようだった。このサイズならば大蛇の首を斬り落とすシーンも想像がつく。今なら自分でもやれるんじゃないかと言う思いが一瞬過るが、すぐに頭から追い払った。戦士としての腕を上げつつある聖ならともかく、自分ならどんなに頑張っても一本が関の山だろう。そして何より、三種の神器を受け取ったところで本物が出てくる気が全くしない。


「これも美味いねぇ。さっきのと甲乙つけがたいよ」


 主たる首が満足げに呟く。ツイカを飲んでいない他の首はその事に若干不満そうだが、ヴィンアルス自体には満足しているように見える。


「じゃあ、ヒメを……」


 今がチャンスとばかりにヒメの開放を頼もうとした穂波の言葉を、主たる首が遮る。


「だからこそ、だからこそ惜しいねぇ。明日にはこれが無くなってしまうなんてさ」


 どこかわざとらしさを感じる悔しがりようだが、偽らざる気持ちでもあるだろう。


「量さえあればねぇ。話に応じてやってもいいんだけどねぇ」


 大蛇はそう言いつつ意味ありげに穂波に視線を送るが、穂波としてはこれ以上無い袖は振れない。何か手はないかと考え込んでいると、意外な所から助けが飛んできた。


「ハイハーイ!ボク!ボクがそのお酒、増やしてあげるよ!」


 ヒメが鎖を体に食い込ませながら、全力で身を乗り出してアピールしてきていた。


「お前がかい?冗談はおよしよ。お前みたいな小娘に何が出来るって言うんだい?」


 首の一つをヒメの顔に近付けた大蛇は、その首を揺らし値踏みするかのように彼女を四方八方から睨みつける。だが、ヒメは全く臆することなく、寧ろ胸を張って得意げに答えた。


「フッフーン。そっちこそ、ボクのおじいちゃんを誰だと思っているんだい?酒解神のこと大山祇神だよ!お酒造りなんかチョロいチョロい!」


 確かに大山祇神ならツイカもヴィンアルスも造れるかもしれない。不安要素はあるが、穂波にしてみればヒメに賭けるのは悪い話ではない。

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