異世界人の大蛇退治 2
「めちゃめちゃ根本的な質問していい?」
大蛇は相変わらず目立った動きを見せていない。そのまま大蛇を刺激しないよう、じりじりと女性に近付きながら穂波が尋ねる。
「うん、いいよ、何?」
とりあえず穂波が自分に向かっている事で満足したのか、女性は案外軽い調子で返事をした。その事に違和感を覚えないではなかったが、とりあえずは現状を把握しようと質問を飛ばす。
「あなた、誰?」
「ボク?ボクは櫛名田比売。足名椎、手名椎の娘。ヒメって呼んでくれたらいいよ」
「えーっ……どうなってるのよ」
穂波の知っている櫛名田比売は櫛へと姿を変え素戔嗚尊に守られることになっている。それが何故、今まさに大蛇に食べられようとしているのか、さっぱり分からない。
「あなたが櫛名田比売なら、スサノオ様が助けてくれるんじゃないの?」
考えても分からない以上、疑問は素直にぶつけてみるしかない。だが、櫛名田比売から返ってきた答えは、更に穂波を混乱させた。
「えっ?素戔嗚は来ないよ」
「へっ?」
理解の範疇を超えた状況に思考停止してしまった穂波は呆然と立ち尽くす。
「ちょっとー!お願いだからボーっとしないで!もう、あんまり時間が無いんだって!後で全部説明するから、今はとにかく助けてってばー」
「あー、うん……」
のろのろと動き出そうとする穂波だったが、何をどうすればいいかは相変わらず分かっていない。
「私、ただの女子大生だよ。そんな私に何をどうしろと……」
思わず本音を口にしてしまうが、櫛名田比売はそんな穂波をキラキラとした瞳で見つめると、力づけるように言った。
「大丈夫。キミからは素戔嗚魂を感じるもん。キミならきっとボクを助けてくれる」
「何よ、素戔嗚魂って。意味分かんないんだけど」
聞き慣れない単語に吹き出した穂波を見た櫛名田比売は、少し不満そうに口をとがらせて言葉を続けた。
「素戔嗚魂は素戔嗚魂だよ。キミからはかつてないほどビンビンに感じるんだから」
「やめてよ。それじゃ、まるで他に褒める所のないダメ助っ人みたいだし」
褒められて悪い気はしないが、褒め言葉が意味不明過ぎてすっと入ってこない。
「キミは感じないかい?キミの素戔嗚魂がボクの櫛名田魂と共鳴しているのを!キミとボクが出会ったのは運命。そう!ボク達はソウルメイトなんだっ!」
「ソウルメイトって」
転生の神もそうだが、ちょくちょくレトロなパワーワードを放り込んでくるのは何なのだろうか。
「まあ、櫛名田比売にソウルメイトと言ってもらえるのは悪くないかな」
「だよね。だよね。だったらさ、いつまでも櫛名田比売なんて他人行儀な呼び方しないで、ヒメって呼んでよね」
「うん、分かった……ヒメ」
「オッケー!っと、キミの名前は?」
「穂波。松永穂波」
「ホナミかー。いい名前だね。じゃ、ホナミー。後はよろしくっ!」
手さえ自由なら投げキッスまでしたのではないかという勢いで穂波にウインクをしたヒメは、大人しく生贄モードへと戻った。その切り替えの早さに穂波は半ば唖然としながらも、ヒメを救う手段を考え始める。彼女との会話で笑ったからか、少し落ち着きを取り戻せていた。




