今さら言えない異世界ガチャの秘密 6
「あのさ」
そう結論付けた穂波が、京平達に同意を取ろうと声をかけた瞬間。突然、ある存在について閃いた。
呼びかけに応じた京平達の視線を感じた穂波は、神からは口元が見えないように顔を背けると、無音でその存在について伝えようとした。
「?」
穂波が何か伝えようとしているのは理解した京平達だったが、内容はさっぱり分からない。それでも何度か挑戦した穂波だったが、やがて通じないと理解したのかスマホを手に取った。
すぐに京平達のスマホにメッセージが届く。そこにはただ一言《霊獣》と記されていた。
それを見るなり、二人は納得の表情で頷く。高坂の病を癒せるかどうかは別として、何らかの神秘的な力を持つ獣と出会える可能性もゼロではないだろう。
ようやく意図を伝えることが出来た穂波が小さく息をつく。後は自分達で作ってしまった何となく引かない空気を払拭するだけだ。どうしよう、と二人に目で問いかけると、聖が任せておけとばかりにウインクしてきた。割と自信がありそうな雰囲気を漂わせているが、一抹の不安が残る。それでも自分達にはすぐに浮かぶ案が無い以上、聖に任せてみるしかない。穂波は小さく頷き、聖にバトンを渡す。
「モフモフって事はさ。もしかしたらフェンリルとか見れるんじゃね?」
強引ともいえる聖の舵取りだったが、聖らしいと言えば聖らしい短絡ぶりである。そのせいか、神も特に不審がってはいない。
「フェンリルですか。いいですねぇ。じゃ、引いちゃいます?」
あっさりと変わった空気に少々拍子抜けした穂波だったが、この機を逃す訳にはいかない。
「そうね。フェンリルが見れる可能性があるんだったら、引いてもいいかな」
「そうですね……世界が違いますのでフェンリルとは言いませんが、近しい生物が存在する世界はピックアップされていますね」
言い回しが気にならない訳ではないが、フェンリルに出会う事が目的ではない。じゃあ引こうか、と言いかけた穂波だったが、神の言葉に遮られてしまった。
「もっとも、京平さん達は出会ってるんですけどね。クプヌヌに」
言わずもがなの事を何故今になって言い出したのかと、訝しがる三人。
「別に出会いたくて出会った訳ではないんだけどな」
そう言いつつ、京平は何とか神の意図を読み取ろうと表情を窺う。だが、そこにあるのはいつも通りの営業スマイルだ。
「いや、ただ目的は果たされてるんですよって事をお伝えしようかと思っただけなのですが……」
神は京平に見られている事を意識してか、わざとらしく困った表情を作ってみせた。
「まあ、今更言っても仕方ありませんしね。今回もまた引いちゃって下さい」
神に詳しく説明する気はないらしい。そして京平達にも詳しく聞く気はなかった。
「そもそもクプヌヌはモフモフしてないだろうが」
「そうでしたっけ?サーセン」
例によって適当な神の謝罪を聞き流した三人は、おもむろに立ち上がると賽銭箱に小銭を投げ入れログインを済ます。
「今日もバラバラでいいよね」
穂波の言葉に京平達も頷く。今日もまた三人一緒の世界へ転生するような事があれば、今度こそ本気で穂波が詰めるに違いない。
「じゃあ、全員バラバラで、そのピックアップガチャを引くわ」
穂波の宣言に、神は満面の営業スマイルを取り戻した。
「承知いたしました。それでは、準備は宜しいでしょうか?では、参りましょう。レッツ、異世界ピックアップガチャ!」
久しぶりにノリノリでポーズを決める神を、三人は冷めた目で見つめつつ異世界へと旅立っていった。




