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今さら言えない異世界ガチャの秘密 1

 翌朝。

 いつも通り早朝にやって来た聖は、文句を言いながら迎え入れた京平を宥めながらダイニングテーブルの一角に陣取った。神は神で既に起き出していて台所の奥で何やらごそごそしているが、昨日に引き続き相手をするつもりはない二人は、四方山話に花を咲かせつつ穂波の到着を待つ。


「おっはよー」


 穂波は穂波でいつもと同じ時間に訪ねてきた。昨日の帰り際と打って変わり、晴々とした笑顔を浮かべている。


「おはよう。何かいい事でもあった?」


 聖の無遠慮な質問にも、その笑顔は崩れない。


「ん?別にそう言う訳じゃないんだけど」


 そう言いつつ、京平の隣の椅子に腰掛ける。


「昨日、エフィさんと女子会したのよ。そこでね、色々とお取り寄せスイーツを御馳走になっちゃたりしたのよねー」


 穂波はうっとりとした表情を浮かべつつ、久々に味わった甘味の一つ一つを思い出す。


「ホント、どれも美味しかったー。流石はエフィさんよね、見る目があるわー、私なんかが言うのはおこがましいけど」


 思い出しただけで涎が垂れてきそうになった穂波は、慌てて口を拭う。


「後は、鰻屋のパンケーキ。何でもありだとは思っていたけど、まさかパンケーキまでやってるとはねー」

「ああ、あれ、エフィさんの注文だったんだ」

「ナン焼いてるのかと思ったらパンケーキだもんな」


 目の前でパンケーキが華麗に宙に舞うのを見ていた京平達にしてみれば、ようやく事の真相が分かったというところだろう。もっとも鰻にピザに冷やし中華、と何でもござれな店だけに今更パンケーキが増えたところでそれほど驚くことではない。


「鰻屋に行ってたんだ」

「これまでの人生において、あんなにもカレーを渇望した日々はないからな」


 結局、彼の世界においては最後まで食事問題に悩まされた三人。木の実や山菜はえぐみが強く、兎や鹿は例外なく臭い。それでも人間は食べないと生きていけないと試行錯誤した結果、薬草と一緒に煮込めば辛うじて薬草の味が勝つ事を発見したのだった。草の味だと酷評しながらではあったが、我慢に我慢を重ねて食べ続けた三人。途中、菌糸類ドキドキセットで味変を試すも、キノコとて野菜寄りの存在である。その効果は薄く、結局ずっとカレーの幻を追い続ける事になったとしても、無理もない事だろう。


「そもそも、あれって何だったんだろうね」


 穂波の言うあれとは薬草の事だ。聖達としては採取したタイミングで神からの通知が来た事で薬草だと認識したのだが、実態は使用方法も効能も分からない謎の草である。


「さあな。まあ、食べ続けて何ともなかったのだから、毒ではなかったんじゃないか」


 京平は思い出したくもないとでも言うかのように頭を振りながら答えた。


「まあ、そうよね」


 穂波としては気にならない訳ではなかったが、思い出したくない気持ちもよく分かる。それに、今更何か分かったところで食べ続けた事実は変わらない。であれば、謎は謎のまま触れずにいた方がいいのかもしれない。そう思った穂波は、それ以上追及せずに話を終わらせた。

 聖と京平は何を見るでもなく手元のスマホに目をやり、穂波は昨日のスイーツの味を思い出しては時折相好を崩している。『おねリン』を初めて以来、久しぶりにまったりとした休日の朝を過ごす三人だったが、この平穏が長続きしない事は十二分に理解していた。

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