サバイバルフレンド 6
そして、現世で十時間が経過した頃。三人は疲労困憊と言った様子で京平の家へと還ってきた。
「おっかえりっなさい!どうでした?魅惑のハンティング生活は?」
うきうきした様子を隠そうともせず訊いてくる神を、三人は一顧だにしない。
「お疲れ、また明日」
短く京平達に挨拶した穂波は、さっとスマホを取り出すとどこかへ電話をかけ始めた。
「もしもし、エフィさん?私です、穂波です。先日は色々とありがとうございました。そう、そうなんです。エフィさんにとっては昨日ですけど、私にとってはちょっと経つんですよ」
とりあえず座り込んだ二人に軽く手を振ると、そのまま話をしながら玄関へと向かう。
「それでですね。急なんですけど、これから寄らせてもらっていいですか?ちょっとスイーツやけ食いでもしようかと思いまして。……そう、そうなんですよ。もしかして、話、聞いてくれます?……やった!じゃあ、こんな時間なんでコンビニくらいしかないと思いますけど、スイーツ買い込んで行くんで」
それっきり振り返ることなく、そのまま外へと消えていった。
その様子を無言で見送った二人は、やがてどちらからともなく呟く。
「……鰻屋」
お互いが発した同じ言葉に驚くこともなく、二人は顔を見合わせるとそのまま頷き合って立ち上がる。そして神に一瞥をくれることなく、穂波の後を追うかのように玄関へ向かった。
「何食う?」
「カレー」
京平が即答すると、聖も納得の笑みを浮かべた。
「だよな」
「そりゃ、あれだけ向こうでマサラマサラって言ってたらな。おかげでこの十日ずっとカレーの口だぜ」
「確かに」
二人は笑い合いながら家を出ていく。そして京平はガチャンと殊更大きな音を立て鍵をかけた。玄関から聞こえてきたその音は、無慈悲にも部屋中に響き渡る。
「えっ?無視ですか?ガン無視ですか?」
呆然と立ち尽くす神。どうやらこの展開は全く想像していなかったらしい。
「いくらなんでも、この仕打ちはあんまりだと思うのですが……」
自らの行いは棚に上げたのか、そもそも何もしていないから心当たりがないのか。とにかく自分には何の非もないかのように悲劇の主人公を気取ってみるが、誰も見ていなければ虚しいだけだ。
それでも少しの間ポーズを取り続ける神だったが、やがて心に吹き荒ぶ隙間風に大きく身を竦ませた。
「いやはや、まさにいやはや、ですよ。せっかく皆さんとカラオケで盛り上がろうかと準備していたんですけどねぇ」
お社の前に賽銭箱と並べて置いて届いたばかりのカラオケセットを残念そうに見遣る。ご丁寧にタンバリンやブブゼラやら、京平が見たら即座にキレそうな盛り上げグッズまで準備してあった。
「しかし、カラオケがお気に召さないとなると、何で盛り上がればいいんでしょうか……」
見当違いな悩みに頭を抱える神だったが、答えてくれる者はどこにもいなかった。




