サバイバルフレンド 3
「調味料ないんじゃ、煮たところでどうにもならないか……」
穂波が漏らしたのは、全員が気付きつつも触れずにいた初めての冒険セットの弱点だった。携行しやすい簡易的な物だが種類の揃っている調理道具に対し、調味料の類は一切入っていないのだ。
「初めての冒険で調味料使うなんて贅沢だって話かな」
「初めてなら非常食で足りる程度の冒険にしておけって事かもよ」
穂波が口火を切ったことで、聖達も口々に感想を言い合う。
「じゃあ、何で調理道具が入っているのかって話だよな」
「非常食だって温めれば美味しく頂けるだろ?つまりは、そう言う事さ」
「だいたいさ、京平達は向こうで一回使ってきたんでしょ?その時はどうしたのさ?」
「どうって、あの時はマリエラさんが居たからな」
京平の言葉に、聖も同意を示す。レリーの忠実な従者たるジェノの代わりに、甲斐甲斐しくも手際よく食事の準備を整えてくれたのだ。
「あの人がちょっと手を加えただけで、非常食が普通の夕食に様変わりしたもんな」
「そもそもマイ調味料とか普通に持ってそうだし」
「そうかそうか、女子力か。女子力で負けてると言いたいのか!」
マリエラを知らない穂波だったが、京平達の言葉によって謎の敗北感を与えられてしまう。
「別にそうは言わないけど、マリエラさんなら、この肉ですらワンチャン食べられるようにしてくれる気がするんだよなー」
暢気な口調で答えた聖に悪気は無いが、最早言ってしまっているも同然である。
「よーし、そこまで言うならやってやろうじゃない。見てなさいよ」
投げ捨てた鍋を再び手に取った穂波は、鬼気迫る表情で肉を調理し始める。
そして煮たり焼いたり悪戦苦闘する事小一時間。敗北を悟った穂波は、力なく大地へと倒れ伏したのだった。
「無理。何やっても臭い」
「調味料ない時点で結果は見えてたろ」
京平が容赦なくツッコむと、穂波は寝転がったまま不貞腐れたようにそっぽを向いた。
「いいでしょ、別に。そのマリエラさんとやらに出来るなら、私にだって出来るかもしれないじゃん」
「やっぱり、じょ……」
その言葉に反応しかけた聖を目で黙らせた京平は、話の流れを変えようと試みた。
「それにしても、早々にエフィさんのエルフの料理が恋しくなるとは思わなかったな」
「……そうね」
相変わらずよそを向いたままの穂波だが、同意の言葉は返してきた。
「美味しかったもんな。重たかったけど」
エフィから饗されたのは三人の想像した《エルフの料理》からは果てしなく遠い、濃い味付けの肉料理だった。何となく健康的な料理を予想していただけに最初は面食らった三人だったが、お茶とは違い非常に美味しい。これなら幾らでもいけるとばかりに食べ始めた三人だったが、次々と出てくるこってりした肉料理のオンパレードに若い胃袋も早々に音を上げてしまったのだった。
「手伝ってる時から薄々気づいてはいたけど、ホントに肉ばっかりだとは思わなかったもん」
口の中に濃厚なグレービーソースの味が蘇る。昨日はあんなにも肉はもういいと思ったものだったが、今となっては濃い味付けが懐かしい。
「美味しいお肉が食べたい」
穂波の切実な呟きに聖達も無言で頷く。




