サバイバルフレンド 2
「焼けたんだ」
気を取り直し、焚火の向こうの聖に声をかけた。聖は二人の会話には加わらず、盾を鉄板代わりにひたすら猪肉を焼いていたのだ。
「ああ、うん」
冴えない表情で答える聖。
「どうかしたか?」
訝しがる二人に、聖は無言で皿に取り分けた肉を差し出した。首を傾げながら皿を受け取った二人だったが、肉に顔を近づけた事でようやく聖の表情の意味を理解した。
「あー、なるほど。いつも京平が言ってたことが初めて分かった気がする」
そう言いつつも果敢に肉を口に運ぶ穂波。だが、二度三度と咀嚼したかと思うと、京平達から見えないよう顔を背け吐き出してしまった。
「これはきつい」
「だろ」
何せ獣臭いうえに固いのだ。ジビエの悪い所だけが凝縮されたような肉に、聖ですらお手上げだった。
「よく食おうとしたな」
とりあえず口に運ぶまでした二人を、京平は呆れたように見ていた。臭いの時点でダメだと判断した京平は、皿ごと聖に突き返している。
「臭いがあれなだけで食べられるかもしれないじゃん」
「いや、無理だろ。これに比べたら現世の猪肉なんて無臭に近いぜ」
今すぐに現世に還ったならジンギスカンも牡丹鍋もイケる気がする。京平にそう思わせるほどに、猪の肉は強烈な臭いを放っていた。
「うーん、ワイヴァーンに倒されてから結構経ってたし……やっぱり、時間が経つとダメか」
「それだけとは思えないレベルだけどな」
悔しがる穂波を、京平が呆れたように見る。
「やっぱり畜産に関わる人達の技術って凄いんだねー。おかげで何の苦労もなく美味しいお肉が食べられるんだもの。これからはもっと感謝して食べよう」
京平の言葉を受けた穂波がしみじみと呟く。
「松永も商店街の肉屋でバイトしてるだろ?」
不思議そうに訊いてくる聖に、穂波は呆れたような視線を返して答えた。
「バイトの女子大生に何を期待してるのよ。私なんか、スライサーはおろか包丁だって触らないわよ。そもそもお店に届いた時点で、美味しいお肉に仕上がってるんだし、私なんかが手を出す余地ないに決まってるでしょ」
「そうなんだ」
「だからたまには店に来なって。美味しいお肉取り扱ってるし、何と言っても商店街のジャンヌ・ダルクが美味しいコロッケ揚げてるんだからさ」
「それ魅力」
多少は乗り気な様子を見せた聖だったが、穂波には社交辞令としか聞こえていなかった。
「その気になったらでいいけどさ」
そう言いつつ残りの肉塊に目をやる。
「何とか食べられるようにならないかな……」
その一言にギョッとする京平。
「おいおい、まだ食べる気かよ」
信じられないものを見るような目で見てくる京平を一瞥した穂波は、改めて冒険セットの中身を漁りながら答えた。
「だってしょうがないじゃん。セットに入ってる非常食、四人の三日分だっけ?これだけじゃ、どんなに切り詰めたって十日もたないでしょ。何か方法考えないとさ」
穂波の意見はもっともだが、京平にしてみればどう頑張ったところでこの肉が食べられるようになるとは思えなかった。
「とりあえず、煮てみる?」
鍋を取り出し穂波が訊くが、京平達から返事はない。お互いに眉を顰め顔を見合わせているだけだ。その様子に、穂波も頷いてみせた。
「まあ、そうよね……」
力なく鍋を投げ出す。




