サバイバルフレンド 1
焚火に照らされている穂波の表情はどこまでも不機嫌そうだ。改めて今日の出来事を思い返してみたが、やはり三人揃ってこの世界に転生させられたのは神の意趣返しに思えて仕方がない。
「一応ガチでやってるって豪語してるんだぜ」
そんな穂波の心中を察した京平が声をかけるが、そう思っていないであろう事はその声音からすぐに分かる。二人共思い当たる節があるだけに、疑念は拭い去れない。
「……三万はやりすぎだったか」
「あいつが勝手にレート上げたんだけどね。とは言え、勝ちすぎたのも事実だし……」
京平が初期装備に悩んでいる際の神の言葉からしても、先日のゲームで完膚なきまでに叩きのめされた事を根に持っているだろうことは想像に難くない。
「まあ、石九万分の代償だと思えば、一回くらい我慢出来るわよ」
そう言った穂波だったが、言葉とは裏腹に表情は渋いままだ。
「我慢出来てる顔じゃないけどな」
京平に茶化された穂波は、さらに表情をムッとさせた。
「うっさいなぁ。今必死で自分を納得させてるんだから。エフィさんも言ってたじゃん。あの神こそが試練なんだって。だから、この世界も試練。これを乗り越えたら、きっと新しい道が見えてくるのよ」
自分に言い聞かすようにまくしたてた穂波だが、あまり効果はなかったようで、言い終えると同時にがっくりと肩を落としてしまった。
「……次、がんばろ」
小声でそう締めくくる。
「どうする?何なら還ってしまうのも手だぞ」
その呟きを聞きつけての京平の提案だったが、穂波は強い口調で拒否した。
「それは絶対に嫌。ここで還ったら私達の負けじゃん」
「それは流石に考えすぎだろ」
苦笑いしつつそう言った京平だったが、穂波の気持ちも分からないではない。
「そうかもしれないけど……でも、嫌なものは嫌なの。とにかく今回は絶対に自分からは還らないし、絶対に死んでなんかやらないから。意地でも十日間ここで過ごしてやる」
穂波の決意が固い事は、表情に如実に表れていた。こうなった穂波を止められる者は、ここには居ない。京平はやれやれとばかりに肩を竦めた。
「オーケーオーケー。三人で力を合わせて、ここを生き抜こう」
京平にしてみれば、ここに残る事に異論がある訳ではない。望みは薄そうだが、高坂の治療方法がないと決まった訳でもない。それこそ、穂波が言う通り新しい道を見つける事が出来るかもしれない。
「うん。がんばろ」
穂波が微笑むが、例によって突然聞こえてきた神の声により、一瞬で能面と見間違わんばかりの無表情に変化した。
「おっめでとうございまっす。肉を焼け、クリア。爆轟大斬斧ゲット!引き続きハンティングライフをご堪能下さい」
「そんなにご堪能ご堪能って言うんならさ、何をどう頑張ればご堪能出来るのか教えてよ」
ため息とともに吐き出された穂波の問いだったが、神の反応はない。その事自体は予想出来ていたが、だからといって腹が立たない訳ではない。もう一度ため息をついた穂波は、頭を振って神の存在を意識から振り払ってしまう。




