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Bad Will Hunting 16

 無事に洞窟に帰り着いた穂波は、陰に隠れてホッと一息をついた。ここまでは上手く事が運んでいる。京平達が戻ってきてから肉を焼けば、三人でクエストもクリア出来るだろう。問題はさっき見えた鳥らしき生き物の存在だ。あれが平原にやって来たとして自分達に気付くかどうか。それによって状況は大きく変わってくる。

 穂波はそっと陰から顔を覗かすと、息を凝らして平原の様子を窺う。程なくして巨大な鳥が群れで飛んできた。ハゲタカのように見えるが、当然のように穂波の知っている大きさではない。更にはハイエナのように見える獣達もどこからかやってきて、鳥と共に我先にと死肉に集り始めた。


「リアル野生の王国じゃん……」


 生々しい光景に若干引いた様子を見せる穂波。思わず顔を顰めたが、それでも平原から目を離さない。餌となる死体が多いからか、鳥獣は特に争う気配もなくそれぞれ肉を喰らい続けていた。目の前の肉に夢中で、遠く離れた場所で隠れる穂波に気付く様子はない。


「このまま何も起きませんように」


 穂波はそう祈りつつ、平原の様子を見続けた。その祈りが功を奏したのか、やがて鳥が一羽、また一羽と飛び去って行った。そして獣達もまた、口に咥えた肉塊を土産にこの場から去っていく。後に残されたのは壮絶に食い荒らされた猪の残骸だけだ。


「……うわぁ……」


 その惨状に言葉を失う穂波だったが、とりあえずの脅威は去ったと言えるだろう。陰から出て、辺りに生き物の影がない事を確認すると、大きく伸びをした。気が付けば日もだいぶ傾いてきている。夜が近い事を感じた穂波が腕時計を確認すると、いつしか短針は六十度近く進んでいた。何事もなければそろそろ京平達が帰ってきてもおかしくない。


「無事かな」


 振り返っても見えるのは暗闇だけだ。もうじき約束の時間だしどうしたものかと思案していると、暗闇に微かに揺れる小さな灯りが現れた。こちらへ近付いてきているのだろう。灯りは徐々に大きくなり、そして同時に見知った人影を光の輪の中に浮かび上がらせる。それを見た穂波は、二人がどうやら時間通りに帰って来たらしいと安堵の笑みを浮かべた。


「お帰り」

「おう、ただいま」

「ただいま」


 弾んだ声で呼びかけると、すぐに聖達の声が返ってきた。二時間の洞窟探検の後という事もあって疲れは見えるが、怪我をしている様子はない。

 無事に再会を果たした三人は、少しばかりお互いの無事を喜び、そして状況を確認し合った。

 最深部には辿り着けなかった聖達だったが、道中生き物の気配はおろか何かが住んでいる気配すら感じなかったという。自然に出来た洞窟か、打ち捨てられた巣穴か。その判断は出来ないものの、危険があるようには思えないというのが、二人の意見だった。

 そして穂波の方はと言うと、彼女の言葉以上に夕闇に沈みつつある平原の光景が先の惨事を雄弁に物語っていた。

 結局、下手に動くよりかは安全だろう、とこの場をキャンプ地と定めた三人。初めての冒険セットで野営の準備を整えている間に日は落ち、準備が整った頃にはすっかり夜になっていた。空には星が浮かぶが、地を明るくするほどではない。暗闇の中、火を起こすかどうか話し合った三人。明らかに目立ってしまう事を危惧した京平達だったが、穂波の「報酬が火属性の武器ばっかなんだから、火には寄ってこない」という希望的観測を含んだ鶴の一声に押し切られてしまった。「そもそも火が無かったら肉が焼けない」の言葉に、聖が納得してしまったのも大きい。

 こうして三人は焚火を囲みつつ、この世界の夜を過ごす事になったのだった。

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