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Bad Will Hunting 10

 過去一必死で走ったと思った僅か数分後に、それを上回る必死さで走る事になるとは誰も想像していなかった三人。すぐ横を走り抜ける猪や、唐突に目の前に飛び出してくる猪に冷や汗をかきながらも、とにかく走り続けた。

 そして、どうにか無事に平原を駆け抜けた三人は、目の前の山肌にぽっかりと開く洞窟を見つけたのだった。


「やったぜ!」


 単純に喜ぶ聖とは違い、京平の表情は冴えない。自分達には少し大きいくらいのその穴は、この世界の小動物の巣穴に見えなくもない。


「丁度いい大きさね……」


 穂波も同じ懸念に行き当たったようだが、聖は気付かず一人上機嫌だ。


「な。当たったろ」


 その言葉に、京平達は渋々頷いた。逃げ込める場所が見つかったのは事実であり、そこから何か出てくるとしてもそれはまた別の話だ。

 意気揚々とした聖を先頭に洞窟に駆け込む。幸いにも入口付近に生き物の気配はない。安堵した三人はそれぞれ思い思いの場所に隠れて息を潜めた。暫くの間、外からはワイヴァーンの咆哮と猪の断末魔が断続的に聞こえてきていたが、やがて静かになった。


「終わった?」


 聖が誰へともなく訊くが、答える者はいない。仕方なく自分で確認しようと陰から顔を出す。その目に映ったのは、ボロボロになりながらも空へと舞い上がったワイヴァーンの姿だった。口には戦果として猪を一頭咥え、フラフラと元来た方向へと飛び去って行こうとしている。


「やっぱりワイヴァーンの方が強いんだな」


 のんびりとした聖の口調に安全と判断したのか、後の二人も陰から出てきた。三人揃って小さくなっていくワイヴァーンの後姿を黙って見送る。


「とりあえず一難去ったな」


 その姿が豆粒のように小さくなったのを見た京平が、ようやく安心した表情を見せた。


「その言い方だと、明らかにもう一難やってくるからやめてよね」


 口ではそう言った穂波だが、顔は笑っている。背負っていた弓を下ろすと、地面に身を投げ出した。そのまま酷使した体を労わるかのように、脱力して地に身を任せる。


「……空はやっぱり青いんだ」


 そんな穂波の言わずもがなの感想に、聖達も寝転がって空を見上げた。そう言えば、空に違和感を覚えた事はなかったなと、ふと思う京平。あのクプヌヌのいる荒廃した感じの世界ですら、空は青かった。

 しばらく無言で空を見上げ続ける三人。たまに吹き抜ける風が疲れた体に心地いい。出来ればこのまま眠ってしまいたい、そう思う程疲労がたまっているが、そう言う訳にもいかない。

 最初に重い体を起こしたのは京平だった。どこまで続いているか見当もつかない、暗い洞窟の奥へと目を向ける。


「一難やってくるとしたら、向こうからだろうな」

「だよな」


 その声に応じて聖も起き上がるが、穂波は身じろぎ一つしない。


「だから、そういうフラグ立てるのやめてって言ってるじゃん」

「別にそんなつもりじゃないんだけどな」


 京平は苦笑いしつつ、億劫そうに立ち上がる。


「とは言え、せっかくワイヴァーンから逃げ切ったのに、ここで殺られるのも面白くないだろ?やれることはやっておかないと」

「……それはそうだけど……」


 やや不服そうに答えた穂波だったが、大きなため息とともに身を起こした。確かに京平の言う通り、ここで終わってしまっては、何の為に二回も死ぬ思いをしながら走ったのか分からない。

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