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Bad Will Hunting 8

「ああ、やばい……」


 聖が呻く。どうやら最初に尽きるのは森らしい。気が付けば、周囲は随分と明るくなってきている。


「どうする?曲がる?」


 穂波の提案に、京平はすぐに首を振った。ワイヴァーンはと言うと、未だに諦めそうな気配はない。このまま森の中を走り続けたとて、次に尽きる事になるのは自分達の体力だろう。


「いや、このまま森を出る」

「何か手があるんだな?」


 聖の問いに、京平は不敵に笑って答えた。


「無い!」

「無いのかよ!」


 力強い京平の答えにツッコむ聖の口調も強くなる。だが、京平は悪びれる事なく反論する。


「当たり前だろ。いきなりこんな世界に飛ばされて、どんな手が打てるって言うんだよ」

「そこを何とかするのが京平だろ!」

「俺は孔明でも今孔明でもないんだよ!」


 そう言った京平だったが、目算がない訳ではないらしい。


「森の奥に山が見えてただろ?運が良けりゃ、逃げ込める洞窟の一つでもあるだろうさ」

「運が良ければ、そもそもこんな所に飛ばされねーよ」

「そんなそもそも論は聞きたくないね」


 二人が下らないやり取りを続けている間も、一行は確実にデッドエンドへと近付いていた。そしてその事に最初に気付いたのは、会話に加わっていなかった穂波だった。


「ああ、まずい……」


 疎らになりつつある樹々の間から行く手の状況が垣間見える。そこに広がっているのは、先程と同じような平原のようだ。


「私達の運が良いはず無いもんね……」


 自嘲気味な穂波の呟きで、聖達も今の状況に気付いた。だが、今更方針を変える訳にもいかない。覚悟を決め、森を飛び出す。

 三人の目に飛び込んできたのは、予想通りの平原だった。京平が見た山も見えるが、まだ遥か先だ。だが、そんな事が気にならないくらい目を引く存在が平原にはあった。


「っ!猪!?」


 穂波が驚きの声を上げる。サイズ的には到底猪という範疇に入りきならない大きさだが、見た目はまさしく猪のそれだった。そんな巨獣が一頭や二頭ではなく、大きな群れと言っていいほどの数でそこかしこをウロウロしているのだ。

 三人は壮観ともいえる光景に一瞬追われている事も忘れ、足を止めてしまう。少しの間、まるで何かに魅入られたかのように立ち尽くしていたが、背後から近付いてくる地響きで我に返った。


「これは……詰んだか……」

「前門の猪、後門のワイヴァーンだな」

「それだと圧倒的に後ろだけが危険に聞こえるけどね……」


 京平の絶望的な呟きに聖達は軽口で答えるが、心中は同じようなものだった。猪達が自分達をどう見ているか、そもそも存在を認識しているのかどうかさえ分からないが、自分達に向かってきた日には撥ね飛ばされるか踏み潰されるか、何にせよろくな事にならないだろう。


「何とか、こう、上手く間を通り抜けられないかな……」


 聖が手で猪の間を縫うような仕草を見せながら言うが、穂波達の反応は芳しくない。


「ずっと大人しくしてくれてるなら、行けるかもだけど……」


 そんな穂波の言葉に応えるかのように、猪達の間に不穏な空気が漂い出す。既に戦闘態勢に入ったのか、唸り声を上げつつ前脚で地面を掻いている物すらいる。


「まあ、そうなるよな……」


 京平はそう言うと、振り返って自分達の連れてきたワイヴァーンを見た。その姿を見て猪達がいきり立っているのは間違いがない。

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