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ブラックライン 5

「よし、聖、行ってこい」


 京平が無責任に言い放つ。


「お前、さっき死んでようが死んでまいが関係ないって言ってたろ」


 確かに言ったが、いざ死ぬと言われたら聖でも怯む。だが、そんな思いはおくびにも出さず、聖は転生の準備を始めた。


「はい、では、聖さんが行かれる訳ですね。今回は死体を残すという事で、では、参りましょうか。レッツ、異世界ガチャ!」


 いつもの様に神がポーズを取るが、聖は棒立ちのままだ。一瞬ムッとした表情を見せた神だったが、そのまま聖を転生させる。

 これまでならそのまま姿が掻き消えるところが、今回は神の掛け声と共にその体から力が抜け崩れ落ちる。


「さ、どうぞご覧ください」


 神に促され恐る恐る京平が聖の体に近付き、そっと手を触れる。


「うおっ、冷てっ!」


 想像以上の冷たさに思わず手を放す。


「ね、凄いでしょう?完璧なコールドスリープですよ」


 そもそもコールドスリープが確立している訳でもないこの時代で、何をもって完璧と言えるかは分からないが、少なくとも神がドヤ顔を見せてくる位には凄い事だとは感じられた。


「本当に安全なのか?」


 もう一度聖に触れつつ、そう尋ねる。その体は直前まで生きていたと思えない程冷たい。軽く触れているだけでも凍傷になってしまいそうだ。


「まあ、健康な人であれば、大丈夫かと……」

「健康なら、ね……」


 神の力で、とは言え一時的に死ぬのだ。それなりの負担はかかるのだろう。


「いやいや、飛行機とかでもそうでしょう?事故を起こす確率はゼロではありませんが、だから安全じゃないって利用をやめますか?やめませんよね?それと同じですよ」


 何か後ろめたい事でもあるのか、聞かれもしていないのに言葉を続けている。


「……確かに、危険だからやめるかどうかって話だよな」


 高坂を救えるかもしれないチャンスをふいにする程の危険かどうか。


「だから、安心安全なんですって。コールドスリープに関してはちゃんと氷室明神様のお力を借りていますから、そこは信用してくださいよ」


 生死に関わる部分が目の前の神の力でないと言うのは、確かに安心出来る話だ。


「ま、そこは信用するしかないんだろうな」


 高坂を異世界に連れて行けるかどうかはともかくとして、自分達が行く分には許容出来るレベルだろう。


「はい、それはもう、存分に信用して下さい」


 そう言って精一杯の笑顔を見せる神。


「他に何か言っておくことは?」


 その笑顔に胡乱な物を感じた京平が尋ねると、神の目が一瞬泳いだ。京平はそれを見逃さない。


「……まだ何かあるのかよ……」


 明らかにうんざりした表情を見せた京平に、神が慌ててフォローを入れる。


「いやいや、そんな事はありません。ありませんが……その……」


 言いにくそうにしていた神だが、京平に大きなため息をつかれ、渋々と言った感じで話し始めた。


「いや、その、転生先で死ぬとですね……少し、蘇生が遅れる可能性があるんですよ。いや、それでも全然大丈夫ですよ。大丈夫なんですけど、その、少しだけ危険性が高まる可能性が微レ存と言いますか……」

「マジかよ。聖、一度死んでるぞ」

「ああ、あのタイミングだと大丈夫です。転生直後はわたくしも向こうの担当者様も、転生された方の様子をモニターしてますからすぐに現世への転生の手続きへ移れます。ただ、転生後暫くすると、どうしてもモニター出来ていないタイミングが生まれてしまうんですよね。そんな時に死なれますと、どうしても手続きが遅れる事になりまして……」


 京平の冷たい視線に晒され、早口で捲し立てる神。


「まあ、ほんの少しだけ、本当にほんの少しだけですけれども異世界で死んでる時間が、ほんの少々長くなる可能性が微レ存……」

「おはようからおやすみまで寄り添う転生の神とか言ってたじゃないかよ」

「だーかーらー、そういう心構えでやってはいますけど、基本料金無料なんですから限界ってもんがあるでしょ」


 神が逆切れ気味に言い返してくるが、京平は相手にする気力を失いつつあった。


「あー、もういい、分かった。とりあえず、思ってた以上にリスクがあるって事は理解したよ」

「いやいや、何度も言いますけど、安心安全な転生体験なんですって」

「……分かった分かった。神がそう言うならそうなんだろうよ」


 完全に面倒になった京平は、投げやり気味に話を打ち切りにかかる。


「明日から穂波も参加するから、彼女にもちゃんと説明しろよ」

「えっ?わたくしがですか?」


 神の表情とは思えない程、嫌そうな表情になる。


「『おねリン』の担当者だろ。ちゃんと仕事しろ」

「滅茶苦茶文句言われるのが目に見えるんですが……」

「それも仕事の内だろ」


 そう言った京平は、ふとある事を思い出し、嫌々ながら神との会話を続ける。


「そういや、さっき気になる事を言ったな」

「何ですか、まだ何かあるんですか」


 神も面倒くさそうな感じを隠さない。


「向こうの担当者って何だよ」

「向こうの担当者と言えば、向こうで転生を司っている神様の事に決まってるじゃないですか」


 何を今更と言った感じで答える神。


「向こうにもいるんだ、あんたみたいなのが……」


 絶望感満載の京平のその言葉に、神が抗議する。


「何を仰います。他の異世界では至高神や死の神が兼任されている事が殆どで、わたくしみたいな専任の神がいる世界なんてほとんどないんですよ」


 それはそうだろう。転生だけを司る神なんて暇を持て余す事請け合いだ。他の権能の業務の傍らでやる位が丁度いいに違いない。


「まあ、兼任という事で異世界のご担当者様からの皆様へのフォローは遅れる事もあるかと思いますが、そこは専任のわたくしがサポートしていきますから」


 京平にしてみれば、専任のこの神が一番信用できない気がしてならないのだが、それこそ今更言ってもどうにもならないだろう。


「そんな訳でこの『おねリン』、『おねがいリンカーネーション』プロジェクトは、異世界の転生担当の神々のご協力も得ておりますので、安心してご参加ください」


 結局のところ、聖の言葉が真理なのだろうと、神の言葉を聞き流しながら思う。

 俺達は異世界へ行って、還って、高坂を救う。それだけの事なのだ、と。

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