Bad Will Hunting 5
「武器の使い手を心配するのも分かるけどさ。それが使われる相手の方も問題だと思うぜ」
武器を前に思案する京平達をよそに、遠くを眺めていた聖がポツリと呟いた。
「……何だよ」
京平達もその声音に不穏なものを感じたのだろう。二人は一瞬顔を見合わせたかと思うと、同時に聖の視線の先へと目を向けた。
そこにはあったのは、翼を広げ大空を舞う巨獣の姿だ。思わず目を丸くした穂波から掠れた声が漏れる。
「ドラ……ゴン?」
鈍く輝く黒い鱗に覆われたその凶悪そうな外見は、ドラゴンと思うのも無理はない。だが、その巨躯をずっと眺めていた聖は、軽く首を振ってその言葉を否定した。
「いや、それにしては威圧感が足りてないんじゃないかな。一応、本物を見た身としては物足りない」
視線を外す事なく、言葉を続ける。
「大きさはともかくとして、せいぜいワイヴァーンってところじゃないかな」
「ワイヴァーンもドラゴンだけどな」
軽くツッコみつつも、素早く獣の大きさを測ろうとする京平。
「ワイヴァーンにしちゃデカすぎるだろ」
相手との距離感が狂っているのではないかと思う程に、その体は大きい。威圧感がないと言われればそうかもしれないが、それでも恐れ戦くには十分な姿だ。
「だから、そもそも俺達がワンサイズ小さいんだから、ワイヴァーンだってワンサイズ大きく見えるだろ」
お前が言ったんじゃん、とばかりに珍しく呆れた様子の聖。
「あー……そうだった」
聖にツッコまれるという、らしくない自らの失態に少し顔を顰めた京平だったが、すぐに気を取り直す。
「ワイヴァーン、ねぇ……」
確か尻尾に毒針付いてたのではなかったかと目を向けると、確かにそれらしきフォルムが見える。
「まあ、あのサイズになると、ドラゴンだろうがワイヴァーンだろうが一緒だけどな」
京平が納得したのを見計らったかのように、聖が渇いた笑いを響かせた。大きさだけならレリーと共に対峙したホワイトドラゴンに勝るとも劣らない。そんなワイヴァーン相手に、剣一本で何が出来るだろうか。
「ワイヴァーンはブレス持ってないだろ。それだけでも十分だよ」
「そうか?あの体格で物理で押してこられるくらいなら、ブレス吐かれる方がマシじゃね?」
「お前が守護の力使えたらその方がいいんだけどな」
「痛いとこ突くのはやめろ」
そんな実りのない聖達の会話に穂波が割って入る。
「ねぇ……あいつ、こっち向かってきてない?」
その声には若干の焦りの色が見られた。
「まさか、この距離だぜ。見つかりっこない……」
そう楽観的な意見を述べようとした聖だったが、目にしたワイヴァーンの動きに言葉を詰まらせる。先刻までの何かを探すかのようなフラフラとした飛び方とは違い、何か目的があるかのように自分達の方へとまっすぐに飛んで来ていた。
「マジかよ、何で見つかるんだよ!」
そう毒づいた京平に、穂波が冷静に答えた。
「平原だからじゃない?」
疎らに木が生えてはいるものの、ワイヴァーンまでほぼ遮蔽の無い状態である。
「そこはサイズと距離で何とかなるだろ」
納得出来ない京平がなおも言い募るが、穂波は軽く肩を竦めて受け流した。
「じゃあ、強制エンカウントのイベントなのかもね。わざわざ武器をくれるくらいの世界だもん。敵もセットで用意されてたって驚かないわよ」
そんな穂波の言葉を肯定するかのように、神の言葉が三人の耳にカットインしてくる。




