Bad Will Hunting 4
「一応確認するけど、これも汎用品なんだよな?」
「それはもう、あくまで初期装備ですからね。どれを選んでも手に入るのは汎用品ですよ」
京平の問いに答える神の声は、心なしか弾んでいるようにも感じられた。困り果てる三人の姿に機嫌を良くしているであろうことは、想像するに難くない。
「それで、京平さんは何になさいますか?」
神に再度問われた京平だったが、すぐには答えなかった。どれを選んでも使い物にならなさそうなこの状況では答えようが無いというのが正直なところではあるが、それを認めるのは癪だ。どうにかいい手は無いものかと頭を悩ますが、何も浮かんでは来ない。
「さあ、さあさあ、さあさあさあ」
黙ったままの京平に、神からは矢のような催促が飛んでくる。間違いなく勝ち誇っているであろうその表情を見ずに済んでいるのは幸いだが、その口調だけでも穂波を苛立たせるには十分だ。
「ちょっと!京平が考え事してるんだから、正座でもして静かに待ってればいいでしょ!」
「えー、またですか……」
不服そうな声を上げた神だったが、その後は少しの間沈黙が続く。
「はい、じゃあ、待っていますので早く決めてくださいよ」
最早、条件反射なのか何なのか。正座を強いられるような状況では無かったはずだが、どうやら穂波の言葉通り正座で待つつもりらしい。だからといって穂波が感激するという事もなく、三人は現世の神の様子など無視して、京平が選ぶべき初期装備について頭を悩ませ続けている。
「槍にしてさ、この盾とでファランクスっぽく構えるのは?」
「盾一枚でファランクスと言うのは無理があるだろ」
聖の案は即座に却下された。
「弩は?あれなら引き金引くだけでしょ?」
続いて穂波も提案するが、やはり却下される。
「その引き金が引けるかって話だよ。それに弓であれだからな……リロード出来るかどうかも怪しいだろ」
「でも、そんなこと言ったらどれも選べないじゃん」
聖のもっともなツッコミに、さしもの京平も極まりが悪そうに頭を掻く。
「そう言われるとそうなんだけどさ。ここで問題にすべきは使い物にならない武器ばっかり渡してくる神サイドだろ」
「何を仰います、京平さん。先程も申し上げました通り、初期装備は全て汎用品。つまり、この世界で一般的な武器をお渡ししている訳です」
心外そうに口を挟んで来る神。
「汎用品、汎用品って……汎用品だろうが何だろうが、使えないと意味が……」
反射的に文句を言いかけた京平は、はたと気付いた。こんな神だが、つまらない嘘を言った事はない。つまりその神が汎用品と言う以上、これらの武器は汎用品である事に間違いはないのだ。
「……そう言う事か……」
使えない、というのはあくまで自分達を基準にした話である。だが、ここは異世界。そんな自分達の基準が通用しない存在など五万といる可能性がある世界だ。
「どういう事?」
一人納得した様子の京平に、穂波が不思議そうに問いかけた。
「俺達には大きすぎる武器だけど、この世界の住人にしてみればこれが標準。つまり、俺達が小型って事なんじゃないかな」
「あー、なるほど。つまり、ここはジャイアントの世界なんだ」
京平の説明に、腑に落ちたと言わんばかりの表情を見せる穂波。
「ジャイアントかどうかは分からないけどな。とにかくここは俺達より大きい何かの世界なんだろうさ」
最後の方は嫌味っぽくなった京平の言葉だったが、神は聞いているのかいないのか反応はない。
「願わくば友好的な種族であらんことを、だな」
「だよね」
二人の頭の中には大体のゲームで序盤の手頃なモンスターとして登場する小型生物、ゴブリンやらコボルドの姿が浮かんでは消えていた。自分達があの立ち位置で、目の前の大型の武器を振り回せるような生物が冒険者としてウロウロしているような世界だとしたら、生き抜くのは容易ではないだろう。




