Bad Will Hunting 3
「『おねリン』なんてゲームみたいなものって事かもな」
聖のふとした呟きに、神は大袈裟に同意してみせた。
「ゲーム感覚、大いに結構!そうして様々な異世界を体験していただいた上で、三方良しな本転生をしていただく、それが『おねリン』。みんな大好き『おねリン』。あなたも私も『おねリン』」
「はいはい、分かった分かった。じゃあ、私は弓ね」
興が乗ってきたのか滔々とまくしたてる神の言葉を、穂波がうんざりした声音で遮った。
「……はいはい、弓ですね」
一瞬ムッとしたのか口籠った神だったが、すぐに気を取り直し事務的に対処する。
神の言葉と共に、三人の目の前に弓が姿を現す。一見したところ、穂波が普段から使っている和弓とそう変わらない。まともな物が出てきたと安心した様子を見せた穂波だったが、弓を手にした途端その表情は一変した。
「何これっ!重っ!」
何とか片手で持ち上げられる程度の重さではあるが、正しい姿勢がとれるかというと否である。試しに弦を引いてみると、こちらもまた当然の如く非常に重い。穂波では僅かしか引くことが出来ない。
「ちょっと、これ何キロあるのよっ!こんなの引けるわけないじゃない!」
試しにと聖も手にしてみるが、やはり引き絞るには至らない。
「聖で無理なら誰が使えるって言うのよ!」
「でもそれ汎用品だそうですよ?」
穂波の疑問にあっさりと答える神。
「へっ?」
余りにもあっさりしすぎた答えに、理解が遅れた三人は一様にポカンとした表情を浮かべた。
「だから、汎用品なんですって」
噛んで含めるような神の言い草だったが、今回ばかりは穂波も腹を立てる心の余裕はなかった。
「嘘でしょ……」
こんな弓が一般的に存在するというのである。射る方も射られる方も、どんな存在なのか想像も出来ない。
「それで、聖さんと京平さんは何にします?」
呆然とする三人の様子を知ってか知らずか、神が催促してくる。
「……どうする?俺は剣盾でいいよな?」
聖と京平が顔を見合わせる。レリーから、正確にはマリエラからだが、剣と盾の使い方を習った聖が剣と盾を選択するのは当然の事だろう。
「勿論、それ一択だとは思うけど……」
渋い表情でそう言った京平が言葉を濁す。選択としては正解なのだろうが、問題は出てきたものが使えるかどうかだ。
「だよな。じゃあ、片手剣と盾で」
聖も同じ不安は感じていたが、京平の言う通り一択である以上、他に選択肢はない。
「では、聖さんは剣と盾のセット、と」
弓の時と同じように、神の言葉と共に三人の前に現れる剣と盾。その大きさを目にした途端、三人は虚ろな視線を交わし合った。
「まあ、こんな事だとは思ってたよ……」
感情のこもらない京平の呟きに、聖が機械的に頷く。穂波は薄ら笑いを浮かべながら盾の横にしゃがみこむと、その表面を軽く拳で叩いた。
「……私、これくらいの大きさの盾に助けられてるから悪いイメージないんだけどさ……それでも、このタイミングでこれは無いわ……」
その盾の大きさは、穂波を銃弾の雨から救ったタワーシールドと遜色がない。そして、セットとなる片手剣もそれに見合った大きさをしている。
「これ、片手は無理だろ」
両手で剣を担ぎ上げた聖の姿に京平がため息をつく。
「……まあ、でも両手剣だと思えば何とかなるかな」
全体が大きいだけあって、柄も聖が両手で持つに十分な大きさがあった。試しにと聖は京平達から距離を取ると大上段に構え、そのまま二度三度と振り下ろしてみる。
「うん、行ける」
幸いにも両手での剣の扱い方もマリエラから習っていた。ただし、マリエラが両手で剣を振るう時はとにかくダメージを追い求める時だっただけに、これメインで戦うとなると防御力に不安が残る。
「……双剣ならもう少し小さくならないかな……」
この世界の脅威がどの程度か分からないだけに、出来ればある程度防備も固めておきたい。聖のそんな思いから漏れ出た呟きに、京平が淡々とツッコむ。
「仮に双剣が片手で使えたとしてだ……お前、その盾を片手で扱えるか?」
戦い方を習いこそしなかった京平だが、盾は使ってきていた。それこそ片手で扱えるサイズの物だったが、それでも上手く使えていたかといえば疑問符が付く。そして目の前の盾は、その倍以上の大きさがあるのだ。そう簡単に使えるとは思えない。
「……無理だな」
剣を置き、代わりに盾を持ち上げてみた聖だったが、すぐに地面へと下ろしてしまう。見た目通りの重量で、とてもではないがこれを持って戦闘など出来そうにない。




