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塔の上の転生者 20

 案内されたのは南向きの小さな部屋だった。タワーマンションには似つかわしくないつつましい部屋のその中央にはポツンと卓袱台が置かれており、その上に盆栽らしき鉢植えが一つ飾られている。


「あれですか?」


 それを目にした聖が訝し気に尋ねる。他には何も見当たらない以上、盆栽らしきあれがアーティファクトと考えるのが妥当だろう。だが、盆栽のぼの字も分からないような聖が見ても、その木は貧相としか言いようが無かった。枝振りは悪く、葉もほとんど見られない。


「うん。何だと思う?」


 逆に尋ねられ答えに困った聖は、助けを求めるように京平を見る。だが頼みの京平も首を捻るばかりで、何も答えは浮かんで来ないらしい。ならば穂波とさらに視線を動かすも、同じように首を捻る姿が目に入っただけだった。


「近くで見てもいいですか?」


 京平が尋ねる。近付いたところで分かるようになるとも思えないが、このまま遠目に見ていても何も解決しない。


「いいよ。何なら触っても大丈夫」


 エフィの許可を得て木に近寄る三人。盆栽にありがちな梅や松とは違う、見た事のない木だ。恐る恐る手を伸ばし触れてみるが、手触りは普通の樹皮そのものだ。


「木だね……」


 思わず出た穂波の呟きに、京平達も頷く。種類は分からないが木には違いない。


「フフ。やっぱり分からないかー。君達なら名前は知ってると思うんだけど。思ってるのと違いすぎるかな」


 三人から答えが出てこないと見たエフィは、鉢植えへと近寄り手に取った。そのまま目線の高さまで持ち上げると、僅かばかりの枝越しに三人を見つめる。


「これはね……ユグドラシル」


 三人の反応を楽しむかのようにゆっくりと答えを発表する。


「所謂、世界樹だね」


 言葉と現実のスケールの違いに理解が追い付かず、三人は唖然とした表情でエフィの手の中の木を見つめていた。


「嘘っ……小さい……」


 衝撃から脱しきれないまま、穂波が呆然と呟く。


「これでも随分と育ったんだよー。少しずつ魔力を吸収しては内部で増やして外へ還元、それを繰り返す事で育っていくんだけど……元々が魔法的な力が弱い世界でしょ?なかなかねー」

「世界樹って……世界の中心にドーンと生えてるイメージなんですけど……」


 聖の感想に、エフィは分かる分かると頷いた。


「うんうん。そうだよ。この木もね、元はそうやって世界を支えていた木の一部なんだ」

「どういう事ですか?」

「ユグドラシルはアーティファクトの中でも少し変わっててね。その名の通り世界の根幹を成しているから、誰かの所有物になったりするものじゃないの」

「じゃあ、その木はいったい……」

「これはね、別世界にあった木から取られた新しい木。ユグドラシルはね、珍しく増えるアーティファクトなんだ」

「増えるんだ……」

「普通の植物と同じようにね」


 エフィはそう言うとユグドラシルを卓袱台に置き直すが、その手つきは割とぞんざいだ。


「これがね、ちゃんと育てばこの世界でも普通に魔法が使えるようになるかもなんだけど……ちょっと厳しいかなー。これでも、少しだけだけど魔法の力が強く働くようになっているんだけどね」

「そうなんですか?」

「そうだよー。私以外にそれを実感している人がいるかは怪しいけどさ。と言うか、君達はこの部屋に入って何も感じなかった?」


 三人はお互いに顔を見合わせるが、誰も何かを感じた様子はない。


「そっかー。この部屋は、ユグドラシルの影響で少しばかり魔法の理が強くなってるの。だから、少しだけ魔法が使いやすかったりするんだけど。何も感じないって事は、やっぱり君達は魔術師には向いてないんだねー」

「まあ、そう言う世界の住人ですし……聖が目指してるのもパラディンですし……」


 そう京平が嘯く。一介のゲーマーとしては適性がないと言われてしまうのは、やはり悔しいらしい。


「こればっかりは仕方がないよ。この世界の生まれ持っての魔術師なんて、片手で足りるもの。君達に素質があったら、そっちの方が驚きだよ」


 元気づけているのかそうでないのか、軽く言い放つエフィ。

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