塔の上の転生者 18
「ごめんごめん、話が少しずれちゃったね。ええっと、つまり。癒しの力を持つアーティファクトを見つけることが出来たなら、この世界で結希子さんを治す事が出来るんじゃないかなって」
「あるんですか?」
穂波が思わず身を乗り出す。
「そうだねー。君達の知っていそうな物だと……それこそ、聖杯かな」
「ああ……」
エクスカリバーの伝説が異世界冒険譚ならば、聖杯伝説も同じであってもおかしくはない。
「後は……私が聞いたことがある物だと……エリクサー、アンブロシア、仙桃……って言ったところかなー。物によっては病気を治すだけでは済まなかったりするけど」
「意外とあるんですね……」
穂波の言葉に、エフィは僅かに苦笑いを浮かべた。
「不老不死や不老長寿はどこの世界でも追い求める人が多いからねー。やっぱり、その手の話は多くなるんだよ」
「……それを……私達が手に入れる方法はあるんですか?」
あるとしても決して簡単ではないだろう。それでも、少しでも可能性があるならば、自分達はそれにかけるしかない。そんな想いが穂波の言葉からは感じられた。
「うーん……そうだねー、勿論、あるにはあるよー」
エフィも当然その想いには気付いている。だからこそ、言葉に迷う。
「一つはとっても簡単。所有者から殺して奪えばいい」
実際にはアーティファクトの所有者となるような相手が簡単に殺せるわけもなく、そもそも所有者を探し出すこと自体も難しいのだが、それでもパラディンになろうとするよりかは幾らでも方法はある。
「それは……」
三人が言葉に詰まるのを見たエフィは、すぐに言葉を続けた。彼等がその手段を取りえない事は百も承知だった。
「もしくは神の試練を乗り越える」
これとて簡単な話ではない。だが、エフィは僅かばかりの可能性を感じないではなかった。
「神の試練、ですか?」
「そう。不思議な事にね、アーティファクトってのは、それを真に欲している人の前に現れる事が多いんだよね。それこそ、エクスカリバーや聖杯みたいに。勿論、試練を乗り越えた先に、ではあるんだけどさ」
軽い調子で話を続けるエフィだったが、その眼差しは今までにない真剣な色を帯びていた。
「君達が結希子さんを想って行動していれば、君達の前にアーティファクトが姿を現す可能性はゼロではない、と私は思うんだ」
エフィの言葉に、そんな事があり得るのだろうかと考え込む三人。
「こんなこと言われると不本意かもしれないんだけど、君達の前に転ちゃんが姿を現しているのが、そもそも奇跡的な話だとは思わない?」
「……うっ、それを言われると……」
確かに『おねがいリンカーネーション』というふざけているとしか思えない企画ではあるが、神の助力を得ている事には違いがない。その事を頭では理解しているが、どうしても心はついてこない。
そんな心中がはっきりと顔に出た穂波の表情は、あからさまに嫌そうだった。それに気付いたエフィがおかしそうに笑う。見れば京平達も似たり寄ったりの表情だ。
「えーっ、そんなに転ちゃんの事、嫌いなの?」
「そんな事はないですけど……好きとは言えないですね」
「そっかー、分からないでもないけどねー。でも、ああ見えていい人なんだよー」
きっぱりと言い切った穂波に対し、エフィは適当な感じで神をフォローする。
「それは、そうですけど……でも、神なら神なりのあり方ってものがあると思うんです」
神社の娘として、ずっと心に抱いていた神への尊敬や畏怖。あの転生の神の所業は、そう言ったもの全てを吹き飛ばしてしまいそうになるのだ。




