ブラックライン 4
「じゃあ、こっちに戻って来る時は?ただ生き返ってるだけじゃないよな?向こうの記憶とかちゃんとあるぞ」
「それはもう、ちゃんと転生先での経験はフィードバックさせていただいておりますよ。こちらの死体を生き返らせるだけでしたら、それは単なる仮死体験ですからね」
どうです、とばかりにドヤ顔になりつつある神。
「向こうの担当者様から送付いただいた情報をマージした上で蘇生しますから、異世界での体験はバッチリですよ」
さらにはいい笑顔で親指を立ててみせる。
「じゃあ、例えば風邪ひいた状態で転生したらどうなる?」
「仮転生ならそのままですよ。何も足さない、何も引かない。それが仮転生。向こうでも風邪ひいた状態でスタートですね。あ、でも、あまりにも重い感染症の場合、向こうに迷惑かかるので転生出来ませんから悪しからず」
「一回死ぬのに体調に影響されるのか……」
「まあ、仮転生ですから仕方ないですねー」
本当に仕方ないと思っているのかも怪しい、ヘラヘラとした笑顔で答える神。
「じゃあ、転生できる程度の風邪をひいていたとして、その風邪が向こうで治ったら?」
「勿論その場合も、何も足しませんし、何も引きません。見事完治です。でも、気を付けてくださいね。向こうで変な病気に罹ったまま還ってきたら、それそのままこちらに持ち込む事になりますから」
「現世に迷惑を掛ける訳にはいかないんじゃなかったのかよ」
呆れたように言う京平に、これまた呆れたように言い返す神。
「だから持って帰ってくるなって言ってるじゃないですか」
「なんでそこだけ転生者マターになってんだよ、そっちで何とかしろよ」
「こちとら基本料金無料でやってるんですから、多くを望まれても困ります」
暫し睨み合う神と京平。だが、すぐに神は視線を逸らし咳払いを一つする。
「ま、まあ、現世に迷惑を掛けるのはこちらとしても本意ではありませんから、あまりにあまりなものが持ち込まれそうなら、こちらで対処させていただく事も吝かではありませんが……」
「治るのか?」
「いや、そこはその、水際対策と言いますか、何と言いますか……」
「……還ってこさせない気か」
「いや、あくまで水際対策でして……」
その後も何やら言い訳めいた独り言を呟いている神を横目に、京平は考えを巡らせる。仮死とは言えガチャの度に死ぬと言うのは気分のいい話ではないが、転生先での行動の結果が現世にも引き継がれそうなのは朗報だ。
高坂を無事に転生させる事が出来るなら、向こうで治療を受けさせるという選択肢も出てくる。もっとも、高坂の体調を考えれば何度も試せる手段ではないだろうが。とりあえず、自分達三人が転生した際の水際対策については今のところ考えなくてもいいだろう。
「だいたい、転生先に願いを込めて、レッツ、異世界ガチャってやってる間に、あなた方を転生させつつ、氷室明神様のお力を借りて冷凍、幽世へ一時保存を一気にやってるんですよ。少しはわたくしの大変さを分かっていただきたいもんですね」
恩着せがましく言ってくる神だが、そんな事で恩を感じる二人ではない。
「ああ、後、向こうの世界のアイテムの持ち込みにも気を付けてくださいね。禁止はしていませんが、変なもの持ち込もうとしないで下さいよ」
割と重要そうな事を最後にサラッと付け加えた神だったが、京平は聞き逃さなかった。
「何だよ、変な物って」
「……例えばマジックアイテムだとか、ハイテク兵器だとか、ですかね」
「えっ、マジックアイテム、ダメなの?」
残念そうな声を上げた聖に、神は残念な子を見るような目を向ける。
「当たり前じゃないですか。それぞれの世界にはそれぞれの世界の理という物がありますからね。異世界の物を持ち帰ったとしても、そのまま使えるとは限らないのですよ」
「何も足さない、何も引かないなら、そのまま使えて然るべきだろ」
京平の言葉に神は軽く肩を竦める。
「何も足さない、何も引かないからこそ、使えないのですよ」
「は?」
怪訝そうな表情を浮かべた京平に対し、神が説明を続ける。
「例えば何らかのマジックアイテムを持ち帰ったとしましょう。まあ、本来はやめていただきたい事ではありますが。で、そのアイテムをこちらの世界で使おうとしたとします。するとどうでしょう。上手く使えないではありませんか。さて、どうしてでしょう?」
神に水を向けられた京平は、渋々と言った表情で答える。
「この世界の理に魔法が含まれていないからか?」
「お見事!正解です」
やりますねと言わんばかりに京平を指差す神。
「ま、含まれていないと言うのは言い過ぎかもしれませんけどね。一応、この世界にも魔法使いらしき人は存在したりしましたから。とは言え、一般ベースでは存在しないも同然。マジックアイテムがらくた同然」
「……」
「ですが、そのマジックアイテムの本質が変化したわけではありませんので、元の世界に持ち帰ればマジックアイテムとして使えるって訳です」
言いくるめられている気がしなくもないが、納得出来る気もする。
「まあ、それ以前に持ち込むなって話ですよ。そもそも本転生に向けての仮転生なのですから、何か持ち帰る必要もないでしょう?」
「……そうだな」
それについては神の言う通りなので、京平は曖昧に誤魔化す。
「ああ、そうだ!何でしたら見ます?死体。幽世へ送る手順を省けば、残った人は死体見れますけど」
二人はその提案に顔を見合わせる。見たところでどうなるものでもないが、怖いもの見たさで見てみたい気持ちもある。




