塔の上の転生者 17
「そして、それは場所でも同じだよね……と言うか、場所の方が難しいか。人と違って街中にドーンってあったりする訳じゃなく、大体が辺鄙な所だもの。異世界についてからも大変だよね。命の泉、養老の滝、桃仙郷。君達の望みを叶えてくれそうな場所が存在する世界はそれなりにあるんだけどさ」
「まさかのパラディンが一番可能性高い説……」
思わず漏れ出た穂波の呟きに、京平の表情が絶望に歪む。エフィがああは言ってくれてはいるが、【パラディンになる】がそう簡単に実現出来るとは到底思えない。そしてそれは聖も同じ思いなのだろう。厳しい表情で何やら考え込んでいる。
「そうだねー。結希子さんを安全に異世界へ連れていく方法があれば、話は変わってくるんだろうけど。穂波さん達はそれを探すと言うのが一つの手ではあるよね……」
そう言ったエフィであるが、その表情は冴えない。三人はその表情から、そう簡単ではないのだろうと悟らざるを得ない。
「後は……」
何か言いかけたエフィが、言葉を切り逡巡した様子を見せる。言うべきか言わざるべきか。少しの間迷っていたが、結局、話す事に決めたらしい。
「アーティファクトを探す、かだね」
「アーティファクト、ですか?」
ゲームにおいては強大な力を持つマジックアイテムを指している事が多い言葉である。突然出て来た聞き慣れた言葉に、思わず鵡返しに尋ねた京平。それに対しエフィはあっさり頷いた。
「そう。真なる名を持つ物」
「真なる名?」
聞き慣れぬ言葉に、今度は首を捻る。
「ええ。真なる名。アーティファクトはね、如何なる世界においても通用する名を持つの。例えば、そうねー……エクスカリバー」
「エクスカリバー!」
余りに有名な剣の名に、三人は一様に驚きの表情を浮かべた。
「うん。その名を持つ剣はどんな世界でも魔法の剣としての力を発揮するの。例えこの世界でもね。その聖なる剣は如何なる鎧でも斬り裂き、そしてブリテン島の正当なる王位を示す」
エフィはまるでその手の中にエクスカリバーがあるかのように抜き放ち、そして天へと掲げた。
「もっとも、王位云々は各世界でローカライズされてるんだけど。どこの世界でも必ず何かしらの国的なものの継承権を示すんだよ。伝承って不思議だよねー」
「それじゃあ、もしかして……」
三人は最初の驚きから脱せないまま、次の驚きに襲われる。
「そうよー。アーサー王がエクスカリバーを手にしたのは所謂異世界」
「まさか、そんな……」
思いがけない話に呆然としたままの様子に、エフィはおかしそうに笑いながら話を続けた。
「異世界って遠いようで近いんだよ。君達の知っていそうな話の中にも異世界冒険譚はゴロゴロしてるし、言ってしまえば神隠しなんてのも異世界へ紛れ込んでいるだけだもの。そもそも、君達の言う天国地獄だって結局のところ異世界なんだよ」
「えっ?」
「だってそうでしょ?死後の世界って言ってるみたいだけれど、ようは死んで新しい世界の住人になってるんだもの。立派な異世界転生じゃないかしら」
「そう言われるとそうですね……」
納得したようなしてないような、微妙な表情を見せる三人。
「もしかしたらこの世界もどこかの世界にしてみたら地獄なのかもねー」
「怖いこと言わないでくださいよ」
「私にとっては天国だけどねー」
愛おし気に部屋の中を見渡すエフィ。




