塔の上の転生者 9
「さ、では、そろそろお待ちかねのエルフのお茶の味見と行きますか」
京平達の分の茶を湯呑に注いだエフィは、計量スプーンで急須の中身を掬うと穂波へと手渡した。
「どうぞ。どれだけ飲むかはお任せするね」
「ありがとうございます」
受け取った穂波は真剣な表情でスプーンを満たす薄緑の液体を見つめる。どれだけと言われてもたかが小さじ一杯である。これを飲み切れないという事があるのだろうか、とエフィに目を向けると、微笑む彼女と目が合った。何となく挑まれている気がした穂波は、思い切ってスプーンの中身を飲み干した。
「っ!」
今まで味わったことのない、謎の味が口の中一杯に広がる。木から無理矢理絞り出された水分、とはまさに言い得て妙だ。
「アハハ。どう?不味いでしょう?」
目を白黒させている穂波を見るエフィは楽しそうだ。
「よく飲み込めたねー。よく頑張った」
そう言いながらペットボトルのミネラルウォーターを差し出す。それを奪い取るように手にした穂波は、口の中の木を押し流さんと一気に飲み、そしてむせた。
「大丈夫ー?」
心配そうに背中をさするエフィに辛うじて頷いて見せた穂波は、涙目で訴えかけた。
「……ごめんなさい。エルフのエフィさんにこんな事言うのはあれですけど……ホントに不味いです」
「気にする事ないよ。だってホントに不味いもん。転ちゃんに飲ませた時は吐き出したんだよー、酷いよねー」
相変わらず楽し気に笑うエフィは、玉露を湯呑へと注いでいた。
「昔の私は、これを喜んで飲んでたんだよ。いくらエルフとは言え、凄いと思わない?」
「……そうですね」
ようやく口の中の違和感から解放された穂波が頷く。
「一度、玉露の味を知ったら二度と戻れないよね。あっ、さっきの棚からお皿取ってくれる?」
穂波が取り出した皿に、エフィは十分に温まった団子を盛りつけた。
「これで良し、と。さて、聖君達は大丈夫かなー」
「大丈夫じゃないと思いますけど……二人ともああ見えて格好つけだし、多分我慢して飲み切りますよ」
「湯呑一杯分だよ?言っとくけど、今や私も飲み切る自信ないよ」
「そんなにですか」
「うん、そんなに」
二人はお盆に湯呑と皿を乗せると、リビングへと戻った。




