塔の上の転生者 7
「ダイニングキッチンなのか、リビングダイニングキッチンなのか、それが問題だ……」
穂波が思わずそう呟いてしまう程に、キッチンの向こうのスペースは広かった。ダイニングテーブルが申し訳程度にぽつんと置かれているが、使われているようには見えない。
「どうかした?」
「あっ、いえっ、広いなーって思いまして……」
キッチンに立ったエフィに声をかけられた穂波は、正直な感想を言いつつキッチンへと足を向けた。
「一人じゃ持て余すけどね」
これまた大きな冷蔵庫の野菜室を覗き込みながらエフィが言う。
「前に収穫した時のが残ってたはずなんだけど……ああ、あったあった」
そう言いながら保存容器を取り出したエフィは、蓋を開け中身を確認した。
「それが、エルフのお茶ですか?」
「そうよ」
エフィが容器の中身を穂波へ見せる。そこには細かく刻まれた薄緑の葉っぱが大量に入れられていた。特に何かおかしなところがあるようには見えない。
「あの、気のせいかもなんですけど……さっき、私がエルフのお茶って言おうとしたの、止めませんでしたか?」
「止めたよー」
ミネラルウォーターを注いだ鉄瓶を電気コンロにかけたエフィは、続いて電気ケトルでもお湯を沸かし始める。そのテキパキとした動きに、穂波が入り込む隙はない。
「どうしてですか?」
何か手伝う事はないかとオロオロしながらも、質問は忘れない。
「だって、不味いから」
そう言いつつも、エフィは大量のエルフの茶葉を急須に詰め込んでいた。
「穂波さん、木って食べた事ある?」
「き?……き?……きって、樹木の木ですか?」
意味の分からない質問に面食らった様子の穂波だったが、エフィが頷くのを見て慌てて首を振った。
「無いです!無いです!」
「そうかー、やっぱりないよねー」
エフィがその返事におかしそうに笑う。
「じゃあ、想像してみて。木から無理矢理絞り出された水分。それがエルフのお茶」
真剣に想像しようとした穂波だったが、全く何も浮かんでこない。馬鹿正直に頭を悩ませているその姿に、エフィも申し訳なくなったのか笑いながら謝った。
「アハハ、ゴメンねー、そんなの分かる訳ないよね。後で、味見させてあげる。多分、一口で十分だよ」
「何でそこまで不味いって言うのに育ててるんですか?」
「そうだなー、やっぱり私がエルフだからかな」
少しだけ、どこか懐かしそうな表情を浮かべるエフィ。
「何度も転生、転移したけれど、どうしてかいつも手元にお茶の種はあったのよね。じゃあ、育てるしかないじゃない?」
「はぁ……」
その気持ちは分かるような分からないような言葉では表せない感情となって、そのままフワッとした相槌に出てしまう。




