塔の上の転生者 6
「ああ、でも、本当にこれからは気を遣わなくていいからね。今日だってほら……」
エフィは背後のテレビモニターを指す。
「一応、『だらエル』の為ではあるけど、ゲームしてただけだしねー」
モニターに映っていたのは見た事のあるゲーム画面だ。
「四国無双……」
「あっ、知ってるんだ。もしかして、君もやってる?」
期待に満ちたエフィの言葉に、京平は慌てて首を振った。
「あっ、いえっ、体験版程度しか……」
「そうかー。まあ、世間的にはクソゲーだもんねー」
エフィは笑いながらコントローラーを手に取る。
「すぐ済むから、このステージだけクリアしちゃっていいかな?」
「あっ、はい。と言うか、是非、見させてもらいたいです」
だらエルでも様々なゲームが話題として取り上げられていたが、話を読む限りではエフィの腕前は相当なものなはずである。
「そんな大層なもんじゃないよー」
京平の言葉に、エフィは笑いながら応えるとポーズを解除してゲームを再開した。
見た事のあるキャラが敵を華麗に薙ぎ倒していく。京平も体験版で使用した一条兼定だが、その動きは同じキャラとは思えない程スムーズだ。
「……すげー」
京平が思わずそう呟くほどエフィの操作には無駄がない。
「そんなに凄いの?」
凄さの度合いが分からない穂波が小声で尋ねると、京平は小さく頷いた。
「格ゲーで対戦したら、手も足も出ずに負けそう」
「へえ、それは凄い」
納得した穂波が画面に目を戻すと、兼定はラスボスらしき異形の存在と戦っていた。そして瞬く間に倒してしまう。
「あー、ダメだ、また一緒かー」
勝ち名乗りの後に始まったムービーを見たエフィが天を仰ぐ。そしてそのままムービーをスキップしようとボタンを押しかけるが、京平の声にその動きを止めた。
「あの、もし良かったらエンディング見せてもらっていいですか?バッドエンド風だっていう噂は聞いたんですけど、見た事なくて……」
「いいよー。終わったらムービーから他のエンディングも見られるから、好きに見てくれていいよ」
笑顔で答えたエフィはコントローラーを京平に手渡し立ち上がった。
「じゃあ、お茶でも淹れようか。コーヒー、紅茶、日本茶にエルフのお茶。どれにする?」
「えっ?じゃあ、エルフのお茶をお願いします」
「俺も同じで!」
京平と聖が反射的に答えるのを聞いたエフィは楽しそうに笑った。
「いいねー、そのノリ。お姉さん、そういうの大好きだよ。穂波さんはどうする?」
「じゃあ、私も……」
同じでと言いかけた穂波は、エフィが一瞬真顔に戻り微かに首を横に振った事に気付いた。ゲームに夢中の京平達はその事に気付いていない。
「……私、お手伝いします」
エフィの態度を訝しがりながらも、とりあえず誤魔化す事にした穂波。
「そう?じゃ、お言葉に甘えてお願いしようかな」
エフィはお茶と団子の箱を手に取ると、先に立って歩きだした。
「じゃあ、穂波さんはそれ持ってついてきて」
「はい」
ケーキの箱を手にした穂波は言われた通りについていく。目的の場所はすぐ隣の部屋で、そこはダイニングキッチンになっていた。




