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塔の上の転生者 2

「……で、三十一階の何号室なのよ」


 インターホンを前にした穂波が、部屋番号を押そうとしていた指を止めてぼやいた。三十一階という情報だけでは、相手を呼び出しようがない。

 それを聞きつけた京平は、ため息をつきつつ郵便受けが並ぶ一角へと歩いていく。名前を掲示していてくれればいいが、そうでない場合は何か手立てを考えなければならない。


「どう?分かった?」


 姿が見えなくなった京平に穂波が声をかける。返事はなかったが、暫くすると京平が戻って来た。その顔は何故か微かに強張っている。


「分からなかった?」


 気付いた穂波が心配げに訊くと、京平はのろのろと首を横に振って答えた。


「いや、三千百一号室だったんだけど……」

「だけど?」


 京平の歯切れの悪さに穂波が首を傾げる。


「……三十一階、その一部屋しか無さそうなんだよ」

「えっ……」


 予想外の答えに穂波達も絶句する。三人は驚きの表情を張り付けたまま、暫く無言で顔を見合わせていた。


「……タワマン最上階ワンフロアぶち抜き……」


 聖の改めての呟きに、京平達は嘘だろという表情で肩を落とした。衝撃的な事実に、次の行動が決められない。


「……どうしよう?」


 穂波が珍しく気弱な声を出す。


「どうって……三千百一って押すしかないだろ」


 その姿を見た京平が少し冷静さを取り戻す。ここで三人で迷っていたところで事態は何も解決しない。


「……うん、そうよね……」


 その言葉に後押しされたかのように穂波はインターホンのボタンを押すが、二つ押したところで取り消しボタンを押してしまう。


「どうした?」

「えっ?いや、里見さんが出たら、何て言ったらいいか分かんなくてさ……」

「何てって……神様から紹介されてきたんだから、そう言ったらいいんじゃない?」


 聖の何も考えていない感じの答えに、穂波が眉を顰めた。


「聖……自分で言っていて今の言葉、凄く怪しいと思わない?」

「えっ?……あっ、あー……」


 言われて初めて気づいたのか、納得したように頷く聖。あの神の存在に慣れてしまったのか自分の中では何の違和感もなかったが、他人が聞けば怪しい事この上ない。


「えっ?じゃあ、どうする?こっちの名前を名乗ればいいのかな?そもそも、俺達の名前ってちゃんと伝わってる?」


 聖の言葉に、京平達は渋い表情を浮かべた。あの神のやる事だけに、その辺りは適当に流されてそうな気がして仕方がない。


「……結局、お互いが確実に認識できる言葉って、転生の神、だけなのよね……」


 心の底から嫌そうな表情を浮かべる穂波。その穂波の言葉に何か思い当たったのか、京平がふと首を捻った。


「そもそも、あいつには名前ないのかな?」

「名前?」

「そう。例えば天照大御神にしろ素戔嗚尊にしろ、固有の名前持ってるから太陽神とか武神とは呼ばないじゃん。だけど、あいつはずっと自分の事を転生の神、転生の神って言ってるだろ?だから、実際のところどうなのか少し気になったんだけど……」

「……どうでもいいわよ、そんなの。仮に名前があったとして、性格が変わる訳でもあるまいし」


 京平はなおも考え込む仕草を見せているが、穂波にとってはどうでもいい事だったらしい。考える様子も見せず、再びインターホンのボタンへと指を伸ばした。

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