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塔の上の転生者 1

 それから一時間後。それぞれの買い物を終えた穂波と聖は、駅前の喫茶店で京平の到着を待っていた。


「里見さんて、どんな人なんだろうな」


 早々にコーヒーを飲み終え手持ち無沙汰になった聖が、穂波に訊くとはなしに訊いた。


「ん?」


 ストローを咥え物思いに耽っていた穂波が顔を上げる。丁度同じ事を考えていたのだが、名前と住所、そしてお茶とお菓子の好みからでは、何も思いつかないというのが正直なところだった。


「……分かんない」


 正直にそう答え、コーヒーを飲む。


「お茶にみたらし団子だろ?意外とお婆ちゃんだったりして」


 そう軽口を叩いた聖だったが、可能性はゼロではないだろうと穂波は思う。結局、相手の人物像を想像するには情報が少なすぎるのだ。


「そうは言うけどさ。最近は若い子だって和菓子買いに来るんだよ」


 店主が映え和菓子に挑戦したところ、商店街のジャンヌ・ダルクの集客効果と相まって密かな人気になっていた。昔ながらの和菓子屋で提供されるフォトジェニックな和菓子の数々、というのが人気の秘訣らしい。


「ほら」


 穂波がサッと検索しただけでも、何件もの書き込みが見つかる。


「へぇ、そうなんだ」


 素直に感心する聖に対し、穂波は苦笑いを浮かべる。


「だから、たまには店においでって」

「……機会があれば」


 甘い物が嫌いな訳ではないが、積極的に食べる方でもない。聖は穂波から目を逸らすように窓の外へと視線を向けた。

 すぐ目の前に聳え立つタワーマンション。聖は件の里見さんが住んでいるという最上階を見上げる。


「これが漫画とかだったら、既に俺達に気付いた里見さんが部屋からここを見下ろして、クククとか笑ってるんだろうな」

「それ、里見さんがどんな悪役設定になっているのよ」


 思わず吹き出した穂波だったが、笑い事ではないと気を引き締め直す。何せ、あの神が紹介してくれた人物である。一筋縄ではいかない可能性は大いにある。


「ちょっと、聖が変なこと言うから、悪の組織の女幹部、みたいな映像しか出てこなくなったじゃない!」

「えっ?俺が悪いの?」


 そんな調子で暫く二人が雑談していると、やがて京平から駅に着いたとの連絡が入った。


「じゃ、行きますか」


 二人は店を出ると、改札で待っていた京平と合流する。


「買えた?」


 穂波の問いに、京平は手にしていた紙袋を掲げた。


「ばっちり。穂波は?」

「こっちも大丈夫」


 穂波も手にしていた紙袋を軽く掲げる。


「そうか。で、聖は?」


 二人の若干不安げな視線が聖に突き刺さる。その視線に少し怯んだ聖だったが、二人と同じく紙袋を掲げて見せた。


「おじさんの所のチーズケーキにした」


 目に見えてほっとした様子を見せる京平達。


「妥当」

「上出来」

「……随分な言われようなんだけど……」


 ムッとしたのか表情を曇らせる聖。その肩を軽く叩きながら、穂波はじっと聖の瞳を見つめた。


「ううん。そんなことない。ヒジリなら、きっとやってくれると思ってた」

「だから似てないって。いや、言ってる事はそれっぽいんだけどさ」

「うーん、私なりに修正してやってみたんだけど、ダメかー」

「見た事ないんだから、普通ダメだろ」


 京平の容赦のないツッコミに口を尖らせた穂波は、二人に背を向けるとさっさと歩きだした。


「ほらっ、下らないことしてないで行くわよ」

「えっ?いや、やってたの松……」


 何やら言いかけた聖だったが、余計なこと言うなとばかりに京平に軽く蹴られ、後の言葉は飲み込んだ。少し不満そうに京平に目を向けるが、当の本人は涼しい顔で穂波の後を追いだしている。仕方なく聖もその後を追うが、目的のタワマンは目前である。それ以上、無駄話をする暇もなく一行はエントランスへと辿り着いていた。

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