或る午後の出来事 11
「っと、俺はどうすればいい?」
「聖は……」
宙を睨んで少し考え込んだ穂波は、やがて一つ頷いて答えた。
「うん。抑えとして、万人受けする手土産を何か買って来て」
「えっ?それって難しくね?」
動揺して助けを求めるように京平を見るが、さっと目をそらされてしまう。
「手土産でありそうなのなら、何でもいいよ」
穂波は簡単に言ってのけるが、手土産を渡すも貰うも経験のない聖である。急に言われて思いつくものではない。
「これもパラディンへの試練だよ。これを乗り越えたら、また一歩パラディンに近づける」
穂波は誰かを意識したのか、芝居がかった口調で付け加えた。
「それ、誰?」
だが、聖には通じなかったらしい。
「……聖の師匠」
「何でやろうと思った」
京平の無慈悲なツッコみに、穂波はほんのり顔を赤くした。
「……こんな感じなのかなって、ちょっと想像したら、つい……」
「似てるか似てないで言うと、似てない。けど、無茶振りを正当化しようとする辺りはキャラクターを掴んでていい。六十点」
真面目に論評され、さらに顔を赤くした穂波は、恥ずかし気に顔を背けた。
「そうか、試練なら仕方ないな」
そんな穂波に気を使ってか、聖が乗っかってきた。
「任せろ!この俺が、万人受けする手土産を買ってくるぜ!」
「あっ、うん、お願い」
意気込んで見せた聖だったが、あっさり穂波に流されてしまい、逆に気恥ずかしくなってしまう。そんな聖にお構いなしに、穂波は話を続ける。
「集合場所は駅でいいとして、時間はどうしよう……京平が一番時間かかるよね、一時間……じゃ厳しいか」
穂波から送られてきたアドレスから場所を再度確認していた京平が頷く。
「そうだな、一時間半は見ておきたいかな」
「じゃ、一時間半後に駅でって……六時前になっちゃうじゃん。ホント夕食時で気が引ける……」
「まあまあ、そこは里見さんが来ていいって言ってくれてるんだから、気楽に行こう」
聖は深刻そうな表情を浮かべている穂波の肩を軽く叩くと、おもむろに立ち上がり軽く伸びをした。
「さっさと行こうぜ。そう言う事なら少しでも早く着く方がいいだろ?」
聖に促され、京平達も立ち上がる。
「確かに。じゃ、二人ともお願いね」
「おう」
「任せろ!」
こうして三人は連れ立って家を出ていった。
完全に無視された状態で一人取り残された神は、暫く呆然と無人のキッチンを眺めていた。耳に痛いほどの静寂に寂寥感が増す。
「ええ……そんなにダメでしたか……」
思わず愚痴が零れる。
「イケてると思ったんですがねぇ、わたくしの歌……」
納得がいかないという表情で首を捻っていたが、やがてポンと手を打った。
「これは……今後一層精進しなければなりませんね。……仕方ありません、まずは家庭用カラオケの手配、手配、と……」
気を取り直したように立ち上がった神は、携帯電話を取り出すと忙し気に電話をかけ始めるのだった。




