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ブラックライン 2

「それで、私はどうすればいい?私も『ぱらでぃんおう』を目指す?」

「なれると思うなら」

「無理ね」


 即答する穂波。


「いや、少しは頑張ろうとか思わない?」


 聖が抗議の声を上げるが、二人は取り合う様子もない。


「パラディンは聖に任すとして、俺達はそれ以外の手段を探す。それには、いろんな異世界へ行ってみるしかないと思う」

「いろんな異世界ねー」


 昨日体験したとはいえ、実感は湧かない。


「なんせ行先がガチャだからな。パラディンになるにしたって、ファンタジー世界を引き当てないと始まらないし」


 そう言えば、昨日神とやらもそんな話をしていた気がする。まさか巻き込まれるとは思ってないなかったので、真面目に聞いてはいなかったが。


「おっけー。とりあえずはガチャ要員って事ね。正直、あの神とやらの話に乗る事になるのは不安だけど、ユキの為だもん。頑張る」


 穂波の口調は、最後には自分に言い聞かせるような感じになっていた。聖の言った通り、道が拓けたのだ。例えそれが茨の道だとしても進むしかない。


「神社の方は今日で一段落だからいいとして、問題は商店街のバイトの方だけど……この夏は休ませてもらうしかないかー」


 行き先がガチャの時点で一筋縄ではいかない気しかしない。夏休みの残り全てが『おねがいリンカーネーション』とやらにもっていかれたとしても不思議ではない。


「会長の渋い顔が目に浮かぶわ」


 大きなため息をつく穂波に、聖が不思議そうに声を掛ける。


「何で?」

「何でって……そりゃ、こう見えて私は商店街のジャンヌ・ダルクだからね」


 ふふんと少し胸を反らして見せる穂波だが、聖は今一つピンと来てないらしく首を傾げている。


「五年位前か、近くにデカいショッピングモール出来ただろ?」


 穂波に目で促され話し始める京平。


「あの時、商店街からの客離れを懸念した商店街の今孔明こと現会長が秘策を繰り出したんだ」

「いや、待て待て。ジャンヌ・ダルクとか今孔明とか、何なんだよ、うちの商店街」


 もっともな聖の疑問だったが、京平は軽く肩を竦めてスルーした。


「氏神様の神社で幼い頃から健気に両親の手伝いをする姿を見続けてきたご近所様に絶大な人気を誇り、スポーツ万能少女として近隣の女子中高生に絶大な人気を誇り、優しい神社のお姉ちゃんとして小学生はおろか幼児にまで人気、なある人物」

「ん?何か大事な区分が抜けてる気がするけど」

「うっさいわねぇ、ばかっ」


 ナチュラルに穂波をディスった聖の代わりに、京平がバシバシと叩かれる。


「会長はそんな松永穂波さんを商店街の看板娘にする事にしたのさ」

「ほうほう」

「商店街が穂波を雇ってね。ローテーション組んで、商店街各店舗でバイトするようにしたんだよ。するとこれが大当たり。どこかの店へ行けば穂波が働いているってなもんで商店街の客足は落ちず、売り上げも増加」


「……別に私が何したって訳じゃないけどね。みんな頑張ってたし」


 肩を竦める穂波。


「そりゃ、穂波ちゃんが頑張ってるんだから俺達も頑張らないとってなる訳じゃん」

「まあ、地域を守る神社の娘としては、当然のことをしたまでですよ」

「で、それからも暇があれば商店街でバイトしている訳よ。おかげでショッピングモール出来て以降も、商店街は絶賛営業中。売り上げは平均二割増し。いつしかついた渾名が商店街のジャンヌ・ダルクって訳」

「なるほどなるほど。つか、やっぱり二割なんだな」


 そう言いつつも素直に尊敬の眼差しを穂波に向ける聖に対し、穂波はドヤ顔で応えた。


「凄いでしょ。おかげでコロッケ揚げられるし、クレープ焼けるし、パンクも修理出来るし、手早くブックカバー掛けられるようにもなったしね」

「……ブックカバー?」


 予想外の単語に聖が首を傾げる。


「驚きだろ。穂波にブックカバーをかけてもらえるという事で、本屋の売り上げすら上がったんだぜ」

「そりゃ、ジャンヌ・ダルクとも呼ばれるわ」

「でしょ?まあ、流石に面と向かってジャンヌ・ダルクと呼ばれるのは恥ずかしいけどね」」


 誇らしげに胸を張る穂波だったが、その頬は仄かに紅い。


「……まあ、元々無理しなくていいって言ってもらってるしね。今回はその言葉に甘える事にするわ」

「悪いな」

「いいって。ユキの為だもん」


 そう言って照れたように笑う穂波。 そう言って照れたように笑う穂波。


「ところで、松永、課題は?」


 自分とは違い、全く気にしていなさそうな穂波に問いかける聖。その問いに穂波は心の底から不思議そうな表情を見せた。


「えっ?普通、終わってるでしょ?」

「いやいや、松永も京平もおかしいって」


 聖の心からの叫びだったが、京平達には響かない。


「『おねリン』のガチャ運次第では、夏休み明け地獄だぞ」


 京平がからかい交じりに脅してくるが、聖は聞きたくないとばかりに大きく頭を振った。


「ああ、もういいから、早速行こうぜ!」


 そう言って勢い良く立ち上がる聖だったが、二人は後に続かず呆れた顔で見ているだけだ。


「いや、私今日は忙しいし」


 穂波はゆっくり立ち上がると、聖の目の前で自分の姿を確認させるよう一回転してみせた。


「今年は手伝ってくれる人がいないから」

「それは、その、すまん」

「冗談よ冗談」


 そう言って明るく笑う。


「そういう訳だから、私は明日から参加するね」

「頼む。適当な時間にうちに来てくれれば、神も来てるだろうし」

「おっけー。じゃ、そろそろ戻るね。あんまりサボってると怒られるし」


 そう言って二人に手を振り社務所へと立ち去りかけた穂波だったが、ふと足を止めて振り返った。


「そうそう、一つだけ気になる事あるんだけど」

「ん?」


 自分達も帰ろうとしていた京平達も足を止める。


「あの神ってさ、転生の神って言ってたよね」

「本人はそう言ってたけど」

「じゃあさ、転生してる時の私達って死んでるの?」

「えっ?」


 聖と顔を見合わせる。お互い深く考えてはいなかったが、言葉通りであれば確かにそう言う事になる。


「転生って死んで生まれ変わるって事じゃん。てことはさ、私達ガチャ引く度に死ぬのかなって」


 穂波は軽く言ってるが、割と深刻な話だ。


「……神は安心安全をアピールしてたけど……」


 神による『おねリン』の説明を思い出そうとする聖。割と聞き流していたので記憶が定かではない。


「本当に死ぬ必要はないって言ってた気はするんだがな」


 そう言った京平だったが、何か引っかかりを覚えたのか難しい表情をしている。


「ま、ちょっと気になったから聞いてみたんだけど。知らないなら別にいいよ。とりあえず、こうして無事なんだし」


 そう言って手を振った穂波は、今度こそ社務所へと帰っていった。それを見送った二人も帰途につく。今日の転生に胸躍らせている様子の聖に対し、京平は難しい顔をしたままだ。

 聖だけが転生した時、その姿は目の前から無くなっていた。それだけを考えると死んでいるとは思えないが、気になるのは神の言動だ。やたらと自分が転生の神であるとアピールしてくる。

 その力が本当に転生なのだとしたら、自分達は既に三度死んでいる事になる。穂波を巻き込んだのは早計だったかもしれない。


「どうしたよ?」

「いや、色々早まったかなって」

「今更かよ」


 京平の悩みを聖はあっさりと笑い飛ばす。


「実際行って還って来れてるんだし、その時に死んでようが死んでまいが関係なくね?」

「……お前は単純でいいな」

「京平が難しく考えすぎなんだよ。俺達は異世界へ行って、還って、高坂を救う。それだけの事さ」


 そう言って京平の背中をバンと叩いた。


「……そうだな」

「危険だからって、高坂を救えるかもしれないチャンスを逃すか?逃さないだろ?じゃ、難しく考えるだけ損だって」


 その言葉に少しだけ京平の心も軽くなる。


「それに、お姫様!エルフ!ケモ耳!危険を冒すだけの価値はあるだろ」


 これさえなければ本当にいい奴なんだけどな。そんな京平の心の内を知らない聖は、いつものように一人ではしゃいでいる。


「さ、早く行こうぜ」


 もう一度軽く京平の背中を叩いた聖が走り出す。京平はやれやれと言った感じで後を追った。

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