或る午後の出来事 7
「ああ!そう言う事でしたら、あの人に会ってみてはいかがです?」
「あの人?」
神が誰の事を言っているのか分からない穂波達が一斉に首を傾げる。
「あの人ですよ、あの人。……何ですか、もう忘れたんですか?穂波さんが会わせろって言った、この世界にいる転生者の人ですよ」
大袈裟にやれやれと言った態度をとってくる神だったが、三人は腹が立つよりも先に驚きが勝った。
「ええっ!もう会えるの?」
声を上げた穂波に対し、神はここぞとばかりに勝ち誇る。
「舐めてもらっては困りますね。わたくし、転生!の、神!で、ございますよ。これくらいの事、朝飯前ですとも」
「権能が転生、権能が転生ってうるせぇから、てっきり人の紹介なんか出来ないもんだと……」
京平の嫌味にも動じない。
「転生者のケアもわたくしの仕事ですから。これくらいの事、造作もありません!」
益々勝ち誇る。
「昨日の今日でご協力いただける方を見つけ出せるなんて、わたくしの神望の賜物と言っていいでしょう。連絡して即オッケーを頂けるなんて、普通ではなかなか考えられない事ですよ!」
そのまま調子に乗って余計な事まで話してしまった。そして、それを聞き逃すほど穂波は甘くない。
「昨日の今日?連絡して即オッケー?という事は、いったい、いつ、オッケーを貰ったのかしら?」
「今朝ですが、何か?」
聖達にはプツン、という音が聞こえた気がした。
「今朝の話を何で今頃になって言ってんのよ!よそ様の家に行くにしても遅い時間になっちゃってるじゃない」
穂波が一気にまくしたてる。
「それはまあ、皆さんお揃いの時にご報告した方がいいかと思いまして」
もっともらしい事を言っているが、誰も本心だとは思っていない。
「皆さんお揃ってからも、かなり経ってるわよ!それに、そもそも頼んだのは私でしょ!さっさと私に報告してくれれば、その時点でどうするか考えられたじゃない!」
「それにまあ、ゲームもしたかったですしねぇ……」
思わず漏れた本心に、穂波のボルテージもマックスになる。
「正座!なう!」
「えー、またですか……」
ぶつくさ言いながらも、さっさと床に座り込む神。
「どうしよう……」
なおもブツブツ言っている神を横目に、穂波が誰に訊くでもなく呟いた。この神相手にいちいち腹を立てても疲れるだけなのだが、いざその時が来るとどうしても我慢が出来ない。
「今からじゃ遅くなるもんね……」
いざ行くとなると準備も必要だろうし、そもそも何処まで行かないといけないかもわからない。
「とりあえず今日は今日で転生して、明日その人に会いに行く?」
「そうだな……」
聖の提案について、京平が素早く頭の中で検討する。今から行くとなると還ってくるのは深夜だが、まさか早朝に訪ねて来いとも言われないだろう。おそらく昼前後の訪問になると考えると、帰還の時間は問題ではない。
「問題は当たりの世界を引いた場合だな……」
仮に聖がレリー達のいる世界をまたもや引いたならば、十時間で還ってくる訳にはいかないだろう。三十時間となると、還ってくるのは明日の夜だ。
「昨日当たり出たばっかりだぜ?そんなに連続で引けるか?」
弱気な意見を出したのは、運に自信のない聖だ。これまでの『おねリン』の引きから考えても、昨日の今日で当たりが引けるとは思えない。
「それはそうなんだけどね……確率の神様は意地悪だからさ」
思ってもいないタイミングで、狙っていない高レアリティを引き当てる。穂波にはそんな経験が何度もあった。それだけに、軽々しくイケるとは言えないでいた。
「それな」
それに関しては京平も同意せざるを得ない。
「そうか。じゃあ、今日は無しだな」
二人の意見に、聖はあっさり同意する。




