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或る午後の出来事 5

「まあ、でも、これからだよ。パラディンが夢物語って訳じゃなくなったんだからさ」


 そう言った聖は、拳を高々と突き上げる。


「『聖騎士王(パラディンおう)』に、俺はなる!どんな世界へ行こうとも、俺はその道を探す!」


 そして、しんみりしかけた空気を振り払うかのように、力強く宣言した。


「そうだな」

「うん」


 聖と穂波は顔を見合わせて笑い合うと、同じように拳を突き上げる。


「俺達は俺達で」

「どんな世界へ行ってもユキを助ける方法を探す」


 三人はそれぞれの顔を見合い、そして頷く。その時、何か思いついたらしい聖が声を上げた。


「そうだ!せっかくだし、あれ言っとこうぜ」

「あれ?」


 聖の提案するあれが何を意味するか分からない穂波達が首を傾げる。


「あれだよ、あれ。ほら、神様が最初の頃言ってた奴」

「ああ、あれね……マジで?」


 あれが何を意味するか分かった穂波は、微かに難色を示す。


「あれか……まあ、いいんじゃないか」


 だが、意外にも京平が乗ってしまった為、渋々ながら同意するしかなくなってしまった。


「まあ、いいけど……」


 三人は拳を下ろし、今度は突き合わせた。


「じゃあ、行くぞ」


 聖の掛け声をきっかけに、三人が声を合わせた。


「転生先に願いを込めて!」


 自分から提案しておきながら、いの一番に耐えきれなくなって笑い出したのが聖だ。後の二人もつられて笑い出す。


「ちょっと、自分で言っておきながら笑うのズルいって!」


 そう言う穂波は目に涙を浮かべながら笑っている。


「悪い悪い。やっぱ、この言葉の破壊力スゲーわ」


 全く悪いと思っていなさそうな感じで笑い続ける聖。


「よくもまあ、あいつは真顔でこれ言えてたよな」


 京平は京平で腹を抱えて笑っている。

 しばらくただひたすらに笑い続けた三人だったが、やがて誰からともなく落ち着いていく。


「……ダメだ。転生の際に不意に言われたら笑わない自信が無いわ」


 穂波の呟きに、後の二人も同意する。面倒くさがっているのか、最近は全く言わなくなっているのだけが救いだ。


「で、今日はどうする?」


 転がったままの神に、チラッとだけ視線を向けた穂波。


「そうそう、ずっと気になったんだけど、神様なんでそんななってんの?」


 経緯が分からない聖は、不思議そうに神を見ていた。帰ってきて随分と経つが、ピクリとも動く気配がない。


「別に大したことじゃないわよ。ほんのちょっと尻の毛まで毟ってやっただけ」


 穂波が面白くもなさそうに答える。


「尻の毛?」

「聖が帰ってくるまでボドゲでもして待とうってなったんだけど、神がお得石賭けてまで一緒にやりたいって言うから……」

「あー……」


 お得石、という単語で聖も概ね状況を察した。


「勝負したんだな、三人で」

「うん」


 ニコリともせず答える穂波。その様子に、聖は思わず神を憐れんだ。


「なんてバカな事を……」


 石が賭けられていたのならば、穂波が京平のサポートに回ったであろうことは想像に難くない。ゲームにおいては相当な実力を誇る二人に組まれては、いかな神とて手も足も出なかっただろう。


「あっ、聖も買っときなよ、石。一回限定だけど、一万円が三万転生石になるから」

「は?三万?」


 信じられないレートに聖から変な声が漏れた。穂波たちの顔を交互に見るが、二人とも真面目な顔で頷いている。


「負ける度にレート上げて挑んで来てたからな」


 京平の言葉に聖はため息しか出なかった。


「負けすぎだろ……どれだけ負けたら三倍とか言うレートになるんだよ……」

「十は下らないんじゃないか?」


 指折り数えようとした京平だったが、途中で面倒になり適当に答えた。


「間違いなくギャンブルで身を滅ぼすタイプよね」

「自分で挑んだんなら仕方ないんじゃないかな……」


 既に身を滅ぼしているようなものだろうと思わないでもない聖だったが、そっと心の中に押しとどめ当たり障りのない台詞で締めた。

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